<2024年更新!>登山時に寝袋(シュラフ)の下に敷くマットレス(登山マット、スリーピングマット、シュラフマットとも呼ばれる)の選び方の基本について解説します。尚、内容は登山中心ですが、キャンプ場を巡るテント泊のバイクツーリングや自転車旅行にも多くの内容が参考になります。
登山初心者向けの内容ですが、経験者の方にも参考になるかもしれません。
- 登山・ソロキャンプ向けマットレス比較一覧表(メーカー/モデル・R値・重さ・厚さ・断熱効率・タイプ)を作成しました。 約80程度の製品のR値を表にまとめています。
著者PROFILE
経歴:大手アウトドアショップで寝袋・マットのコーナーを中心に約4年間の接客経験に加え、独自の調査・研究を重ね、寝袋・マットの情報を中心としたこのサイトを運営して10年以上。無積雪登山・雪山登山・クライミング・アイスクライミング・自転車旅行・車中泊旅行・ファミリーキャンプなど幅広くアウトドアを経験。(詳細プロフィール) 名前:Masaki T
登山でテントを張る場所はどんなところ?
寝袋の下に敷くマットの話をする前に、登山でテントを設置する場所(テント場・キャンプ地)について学んで行きたいと思います。
緩斜面や凸凹の場所が多い
一般的な下界のキャンプ場と登山のテント場(登山ルート上のキャンプ場)の大きな違いは、登山のテント場は全体的に緩斜面や凸凹の場所が多いことです。
車で入り込める下界のキャンプ場は、重機等で整地されるためどこに設営しても地面がほぼ水平、海辺や湖畔などでは緩やかに傾斜していてもそれほど凸凹していません。
登山のテント場は、完全に水平なところは稀で、緩やかに傾斜しているところ、ある程度平らだが凸凹しているところが多く、テント場内の位置での差が大きいです。
以下、多数ある登山ルート上のテント場の一例です。
北アルプス 涸沢のテント場(2012/10/05撮影)
北アルプス 槍平小屋のテント場(2011/09/14撮影)
八ヶ岳 行者小屋 テント場(2017/09/30撮影)
北海道 大雪山 黒岳石室テント場(2013/08/02撮影)
以上の写真は、2000m級の山々のテント場です。
岩がゴロゴロしていたり、テント場が傾斜していたりするのがわかると思います。
小さな石による凸凹は、テント設営前の整地である程度解消できますが、全体的な傾斜や複数の水たまりの凸凹、敷き詰められた岩の凸凹は登山の疲労が溜まった後に整地する気力がなかなか起きず、実質そのままでテント設営し就寝することが多いです。
稀に、オーレン小屋のように、テント設営場を整備していくれている場所もあります。
八ヶ岳 オーレン小屋のテント場(2012/07/09撮影)
比較的平らな場所は優先的に埋まる
人気と登山ルートの場合、同じテント場でも比較的平らな場所は優先的に埋まるため、テント設営が後になればなるほど凸凹や傾斜の強い場所にテント設営せざる終えない状況になることがあります。
赤岳鉱泉 テント場(2017/09/30)
平らな場所が埋まり奥の樹林の中に設営(2017/09/30)
以上のように、下界のキャンプ場に比べて、登山でのテント泊は、岩ゴロゴロ、傾斜あり、木の根が張り出しているなど、寝にくい場所も多々あるのが実情と言えます。
昨今、「〇〇小屋 テント場」とgoogleの画像検索すると、どのようなテント場かすぐに確認できます。
登山用マットの特徴
ここからが本題の登山用のマット選びの話になります。
ようやくここから本題です。
軽量・コンパクト性
他の一般的な車移動のキャンプと違い、登山に置いて非常に重要となるのがマットの軽量・コンパクト性です。
登山ではマットをザック(リュック・バックパック)に入れて何時間も背負って運ぶため、軽ければ軽いほど、収納サイズが小さければ小さいほど、登山も快適になり、安全性もあがります。
軽いは正義ってやつですね
断熱性
登山で使われる寝袋(シュラフ)は、高品質ダウンや化繊綿が主流で、収納サイズもコンパクトになりますが、別の視点から見ると寝袋に入って寝た時に体重が乗った部分はそれだけ押し潰れて、ほとんど断熱性(クッション性も)無くなります。
寝袋に入ってもマットなしで寝ると、地面との接地面からどんどん体温が逃げていくため、体温を保持するための断熱素材かかかせません。
登山で必要となるマットの断熱性能は登る山の標高や時期によっと異なりますが、大きくは
- 無積雪期(夏・秋)
- 積雪期(春・冬)
に大別でき、その対策も多少異なってきます。
様々なメーカーが、マットの断熱力を提示(R値・R-value・熱抵抗値、参考使用温度)していますが、同メーカー内での比較はできますが、各メーカーを包括する統一された断熱の規格が無いため、異なるメーカーでのマット断熱力の比較はできない状況となっています。
2020年より、大手メーカーにおいて、マットの断熱力(R値,R-value)測定に標準化規格『ASTM F3340-18』が採用されるようになりました。2021年時点で、
- Therm-a-Rest(サーマレスト)
- NEMO(ニーモ)
- EXPED(エクスペド)
- SEATOSUMMIT(シートゥサミット)
- BigAgnes(ビッグアグネス)
- KLYMIT(クライミット)
以上の世界的なアウトドアメーカーは採用しています。一方、日本のマット製造・販売メーカー(モンベル、イスカ、など)のWebサイトを見る限り、まだ『ASTM F3340-18』の測定結果は開示されていません。(メーカーによっては既にASTM F3340-18による測定結果を持っていると思われます)。今後、日本においても新規格によるR値は浸透していくと思われます。
経験上、マットの断熱力が足りないと夜中~早朝の寝ている時(最も体温も気温が下がる時間帯)に、「なんか少し背中がうっすら冷えるな~」となります。これは断熱が足りていない兆候です。
標高の高い場所でも夏に底冷えすることはあまりなく、夜中に気温が氷点下になる山の紅葉時期や積雪期になりやすいです。
快適性・クッション性
上記で解説したように、山のテント場は地面凸凹のことも多々あります。そのため、マットにその凸凹を吸収できる程度のクッション性がある方が快適に寝れます。
基本的にマットの厚さが厚ければ、それだけ地面の凸凹と背中の凸凹を吸収しやすく、寝やすくなります。
どれだけのマット厚があれば快適に寝れるかは個人差があり、普段どのような敷布団で寝ているかが、大きく関係しています。例えば、普段寝ている敷布団がふかふかクッションの場合、登山で使うマットもある程度の厚さが無いと背中が痛くなります。逆に、普段から畳の上に綿の敷布団で寝ている場合、背中やお尻などの凸面に集中して体の重さがかかることに慣れているため、登山で硬くて薄めのマットを使っても難なく寝れる可能性が高いです。
耐久性
登山で使われるマットには、複数の種類あります。
- クローズドセルマット[マットの中に閉じられた多数の気泡膜あり]
- エアー系(空気注入型)マット
- インフレータブル[内部にスポンジ]
- エアーマット(&インシュレーテッドマット)[空気のみor空気+断熱構造]
空気を入れないクローズドセルマットとバルブから空気を注入するエアー系マットの2種類に大別でき、耐久性が大きく異なります。
クローズドセルマットは、物理的なキズや摩耗による耐久性が高く、経年劣化にも非常に強いです。
エアー系マットは、穴あき等によるパンクのリスクや、接着面の剥離など起こり得るため、ある程度丁寧に扱うことになります。登山で普及しているエアーマットは、軽量化のため生地が薄いものが多く、それだけ強度も下がり、丁寧な扱い前提となります。
エアー系マットはメーカーの理念や製造技術による耐用年数の差も耳にします。
価格相場
登山用のマットは種類やサイズにより価格は異なります。
- クローズドセルマット:3,000~8,000円程度
- エアー系(空気注入型)マット
- インフレータブル:8,000~13,000円程度
- エアーマット(&インシュレーテッドマット):15,000~25,000円程度(別途、エアーポンプバッグ3,000~4,000円が必要となる製品あり)
クローズドセルマットよりエアー系マットは価格が上がります。
高断熱&軽量なインシュレーテッドマットは、気軽に使うのをためらうくらいの価格です。
登山用マットのサイズ選び
登山用のマット選びで意外と悩むのがサイズ選びです。
マットのサイズとして、横幅・厚さ・長さがありますが、厚さと長さはその人の好みや登山スタイルに合わせたものを選ぶことをおすすめします。
横幅
複数の登山用マットを寝比べる(2019年)
登山用マットは、ほぼどのメーカーも仰向けになって寝た時に両肩が収まる50cm程度です。これ以上横幅があるマットは登山というよりキャンプ向けになります。(日本で流通している登山用のマットは、海外メーカーが主流で、外国人体型に合わせた横幅60cmのサイズもありますが、ほとんどの日本人には大きすぎます)
極力軽量化し無駄を省きたい登山用マットの中には、それほど使われない足元の横幅を削っている製品も多数あります。
厚さ
基本的にマットが厚いほど、地面の凸凹も吸収します。
マットの厚さは、マットの種類に大きく依存します。
- クローズドセルマット:厚さ1mm~20mm程度
- (セルフ)インフレータブルマット:厚さ25mm~38mm程度
- エアーマット(&インシュレーテッドマット):厚さ50mm~80mm程度
経験上、マットの厚さが15mmあれば、ある程度の凸凹であれば快適に寝ることができます。
もっと薄くて軽いマットもありますが、薄くなればなるほど地面の凸凹感がでやすく(岩ゴロゴロのテント場では厳しい)、寝心地も硬くなるため、快適に寝れるかはかなり個人差がでると思われます。
エアーマットは十分な厚みがあり、ブヨブヨせず、左右に落下しにくく設計されているものであれば、よほどの凸凹の場所でも快適に寝ることができ、大概のテント場で快適に寝れる安心感があります。
平らな場所が埋まり奥の樹林の中にテント設営。エアーマットならこんな場所でも難なく寝れます。
長さ
登山用のマットの長さは、大きく分けると
- 肩~お尻(120cm~130cm程度)
- 肩から足(150cm~160cm程度)
- 全身(180cm程度)
の3タイプあります(※ 必要最低限の90cmもありますが、上級者向きで省略)
上の図にあるように、肩からお尻までの赤色の部分は、寝た時に下(床)との接地面が広く、マットの上に乗せるのが基本です。その他の頭や足の部分は、点で接地するため、軽量・コンパクト化のためマットを使わず
- 枕(エア枕、もしくは衣類等を防水袋に入れ枕形状にしたもの)
- ザックもしくはシットマット(休憩時にお尻にしくマット)
で埋め合わせることも可能です。
結論を書くと、初心者にはマットの長さが150cm~160cm程度、もしくは180cmがおすすめです。
理由は、ザックやシットマットで代用すると、
- 寝ている時にズレる(傾斜したテント場では特に)
- 寝心地がマットより良くない(足元の凸凹が気になる)
- 雨天登山後の宿泊だとザックやシットマットが濡れたりするため、マット代わりに敷くと寝袋にも濡れ移りし冷えの原因になる(かなり厄介)
などの現象が起き、面倒なことや気にすることが増えるためです。
次にマットの種類と長さ選びの注意点です。
エアーマットはマット自体の厚さ(50mm~80mm)あり、枕を外付けにすると高さを合わせるのが難しく、エアーマットを選ぶ際は180cmの長さをおすすめします。
衣類詰めた枕は高さでにくくエアーマットに継ぎ足しにくい(枕がエアーマットより低い)
クローズドセルマット、インフレータブルマットは150cm~160cm程度,180cmどちらでも大丈夫です。
女性の場合、女性用サイズを製品化しているメーカー(サーマレスト)もありますので、検討してみても良いかもしれません。
マットの種類と特徴
主に登山で使われる
- クローズドセルマット
- (セルフ)インフレータブル
- エアーマット
の3種類のマットについて、詳しく特徴を見ていきます。
クローズドセルマット
クローズドセルマット(Closed-Cell Foam Mat)は、英語表記からわかるように、マットの中に閉じられた気泡膜が多数あります。クローズドセルマットの断熱性能は素材・マットの厚さ・気泡膜の細かさ(1つ1つの気泡膜が大きいと膜内の空気が対流し断熱力が低下する)・マットの凸凹加工により決まります。
特徴
○優れた点
- 非常に高い耐久性(摩耗・キズ付いても使用上問題ない)があり、確実にマットとして機能する絶大な安心感がある
- エアー系マットと異なり、パンクのリスクが無い
- 凸凹の地面に直接敷ける
- 設置と撤収にそれほど時間がかからない
- 価格が数千円と手頃
- ハサミで簡単に切断できるため、自分の体格にあわせた軽量化が可能
△気になる点
- 収納サイズが大きく、ザックの外付けになる
- 外付けすると、雨天時にマットの凸凹加工に雨水たまり、その後使いにくい(ザックカバーで一緒に覆うのである程度解消可能。悪天候を想定するなら個別で収納袋に入れると良い)
- 折りグセ、曲げグセがつくため、広げても綺麗にまっすぐ広がらない
- インフレータブルマットやエアーマットに比べ寝心地が硬い
登山用のクローズドセルマットは、一般キャンプ向けの廉価なクローズドセルマット・銀マットより気泡が目視が難しいほど細かくなっています。
左側は登山用、右側は一般キャンプ用。登山用の気泡は非常に細かい
マットにアルミ蒸着膜が付いて熱反射により体温を逃さない加工など、断熱力を高めつつ軽量性を実現する工夫が施されているものもあります。
ロール式とアコーディオン式
クローズドセルマットには、
- ロール式
- アコーディオン式(蛇腹)
の2種類あります。
左右:ロール式 真ん中:アコーディオン式(銀と黄色)
ザックに外付けする際にアコーディオン式の方が扱いやすいです。ロール式のマットは、マットの厚みが15mm程度になってくると、ザックのサイドストラップでの取り付けがギリギリになったりします。
- できるだけ費用を抑えてマットを用意したい初心者の方
- テント外の地面に気軽に敷いて使いたい方
- クライミング要素のある岩稜登山をしない方
- 道幅の広い登山道を中心に歩く方(藪こぎはあまりしない)
(セルフ)インフレータブルマット
インフレータブルマットは、マット内部にフォーム(ウレタンフォーム、スポンジとも呼ばれる)が溶着されているエアマットです。このフォームによりマット内部の空気対流を抑え、断熱力を発揮します。
フォームの復元力により、空気を入れるバルブ(栓)を開けると、ある程度マット内に空気が入り、膨らむため、自動膨張式マットレスとも呼ばれます。
特徴
○優れた点
- ザックの中に収納でき、登山歩行中の安全性は高まる
- クッション性があり、寝心地が良い
- マット厚に比例して、床の凸凹を吸収してくれる
- マットの硬さは空気注入量で調整できる
- パンクしても、フォームの復元力により、僅かながらクッション性と断熱力が得られる
△気になる点
- パンクのリスクがある(補修キットは付属している)。今まで山仲間がパンクさせている話、様子を見てきているが、マットの上でナイフ落とす、少し離れたバーナーの熱で溶着が剥がれる(エアー系マットは熱に弱い)、原因不明で寝ている間に徐々に空気が抜けるなど様々。
- マットが劣化や製品不良で、マット内部のフォームと溶着している生地が剥がれる”剥離”の現象が起きることがある。マット内部の出来事なので補修キットによる修理は不可能。
- 補修キットが付属していも、結露でマットが濡れている、どこに穴が空いているかわからない、パンクが発覚しているのが夜中(暗い・仲間に迷惑かかる)、登山中に補修の時間を取りにくい、など登山中に修理できないことも多々ある
- バルブから口で空気が吹き込むと、湿気や唾液がマット内部に入ってしまい劣化を促進してしまう可能性がある(唾液に関しては、顔を地面と垂直にして吹き込めばほぼ入らない)
- 一度マット内に水分が入ると乾かしにくい(天気のいい日に、口を使わずマット内のフォームの自動膨張を生かして何度も空気を入れる出すを繰り返すで乾かせるが、かなり手間)
- 石・草木・土の上に直接置くと、あっさり小さな穴(空気を入れて寝ている間に徐々に空気が抜けるような小さな穴)が開く可能性があるため、基本的にテントの中、何らかのシートの上で使うなど、マットの置く場所に気を使う
- ”自動膨張で空気が入る”と言っても入る量は普段の保管状態に大きく依存する。普段から膨らませて保管していれば非常によく入るが、小さく畳んで保管しているとフォームの復元力が落ちるため、実際に使う時にバルブ開けてもそれほど空気を吸わず、ほぼ自分で空気を入れることになる(マットサイズや肺活量にもよるが、5回~10程度でほぼパンパンになるため、慣れればそれほど手間ではない)
- テント設営の度に、広げる→膨らます、空気抜きながら上手にくるくる折りたたむの作業が発生。テント場は凸凹地面がほとんどで、綺麗に空気が抜けず購入時のサイズよりも実践の収納サイズが大きくなる(購入時に収納袋がダブついているのはこの理由)
- 撤収で空気を抜く時フォームの吸引力があるため、テントの中で屈んだ姿勢である程度床に押し付けながら丸めることになるが、テント設営場所が岩場や凸凹だと、床についている膝が痛い(登山中に使うシットマットを膝に入れるなどで解消可能)
- 価格がクローズドセルマットより高い
基本的な構造
インフレータブルマットは、
- 生地(ポリエステル+TPUフィルム)
- 内部のフォーム(スポンジ)
- 空気を出し入れするバルブ
の3つで構成されています。
化学繊維(ポリエステルorナイロン)の生地に、空気を通さない弾力性のあるTPU(熱可塑性ポリウレタン)と呼ばれるフィルムが貼り合わされたものが使われているようです。(メーカーにより素材は異なるかもしれません)。その内部に、スポンジが溶着されており、バルブで空気を出し入れする構造となっています。
メーカーによる差
インフレータブルマットで使われている素材は、公表されていない内容も多々あり、公表されている範囲内で各メーカーの差を見ていきたいと思います。
主に、
- 生地に使わてている繊維の太さ・織り方
- 内部フォームの肉抜き
- 無駄を省いたマット形状
がスペック的な差になってきます。
登山用のインフレータブルマットには、実使用に耐えうる生地強度と軽量・コンパクト性を極限まで調整された生地が使われています。
昨今販売されている登山向けインフレータブルマットは非常に生地が薄く、手荒な扱いをすると穴が空きそう・・・と直感的にわかります。
3シーズン用はマットの厚さが2.5cmの物が多いです。
厚さ2.5cmあれば、ある程度の凸凹地面でも気にならない
内部フォームが”肉抜き”されている製品が多々見られます。
インフレータブルマット内部のフォーム[出典:thermarest]
各社のフォームの肉抜き方法
NEMO ZOR(ニーモ ゾア):太陽にマットをかざすと肉抜き穴がよく見える
製品により肉抜きの方法や量が異なりますが、肉抜きにより断熱力は低下します(特に縦型は上下の空気の対流が発生)。ただ、モンベルのU.L.コンフォートシステム パッド(旧モデル)のように全く肉抜きしない場合、積雪期でも寝れた、冷たくなかったという話も聞いています。(現行のアルパインパッドも肉抜きしない同様の構造です)。
登山者の多くが3シーズン用途のため、ある程度肉抜きして、3シーズンで使える断熱力を保持しつつ、軽量・コンパクト性を追求しているメーカーが多いです。
膨らました時のマット形状は、軽量・コンパクト化のため、寝袋で寝た時にあまり使われない四隅部分は削られています。
マミー形状になっている
写真の赤いサーマレストのインフレータブルマットのように、接地面積の多い背中部分など接地部分により肉抜き量を増減し、軽量化と断熱性が調整されたこだわりのマットもあります。
サイズ選び
同モデルでも120cm,160cm,180cm,の3種類の長さが用意されている製品が多いですが、登山での軽量・コンパクト化を考えると、160cmが初心者にも扱いやすく、おすすめです。
160cmのインフレータブルマット+枕で全身のせれる(身長176.5cm)
上の写真のように、エア枕、もしくはスタッフバック(寝袋の収納袋でもOK)に衣類を入れた枕を足すことで全身をのせることができます。
使い方
インフレータブルマットは、ある程度まで自動膨張してくれるため、
- [設置手順]:マットを広げる ⇒ バルブを開けて数分放置 ⇒ ある程度膨らんだら口で膨らませバルブを締める
- [撤収手順]:バルブを開けてある程度空気抜く ⇒ 大きく畳み体重をかけてある程度空気を抜きバルブ締める ⇒ 一度広げ残った空気を押し出すように丁寧に丸める ⇒ ある程度丸めると残った空気が端にたまるので、バルブを開けて丸めながら空気を押し出す ⇒ 空気をバルブから押し出したところでバルブを閉めて収納袋へ入れる
の手順で使います。(急いでる時は最初から口で膨らませることもあります)
以下の動画をご参考に。(撤収最終部分でマットを縦に折りたたんで収納していないのが少し参考になりませんが)
インフレータブルマットの多くは、息で膨らまします。息で膨らませると、どうしてもマット内に湿気が入りマットを劣化を促進させるため、別途ポンプが使える製品もあります。
息で膨らませる時、下を向いて息を吹き込むと唾液が入りやすいため、できるだけ真横を向いて吹き込むことをおすすめします。
セフルインフレータブルマットに息を吹き込む(膨らます)時に唾液が入らないようにする
この作業は、天気の好い日であればテントの外で難なくできるのですが、雨天時に狭く高さが1m程度の頭を上げにくいテント内でやるには、ちょっと気合が必要なときがあります。
その他
数年前まで登山用のエアー系マットといえば、ある程度自動で空気が入り、口で空気を吹き込む回数も5~10回程度で終わり、寝心地もよいインフレータブルマットが主流でした。しかし、ここ数年は技術の進化により
- エアーマット内部に断熱構造を持ち、インフレータブル以上の軽量・コンパクト性・断熱性を持つエアーマットが作られるようになった
- エアーマットを膨らませるには多量の吹込みが必要だが、エアーポンプバッグにより多量&簡単に空気を入れることができるようになった(エアーポンプバッグの使用により、マット劣化の原因となる息の湿気が入らなくなった)
となり、スペック的にはインフレータブルよりエアーマットが優れる傾向にあります。
価格は
- インフレータブルマット:8,000~13,000円程度
- 高性能エアーマットは15,000~25,000円程度(別途、エアーポンプバッグ3,000~4,000円が必要となる製品あり)
となっていて、エアー系マットを試したいが高性能エアーマットは価格的にちょっと・・・というユーザーから需要あります。
- マットをザック内に収納したい方
- 岩場の稜線、藪こぎ、アルパインクライミングなど、難易度の高い登山ルートを歩く方
- 寝心地・クッション性を重視したい方
エアーマット(インシュレーテッドマット含む)
エアーマットは、ポンプで膨らませるマットです。マットの厚みがあり、よほどの凸凹でも感じません。
マット内部が空洞なものは断熱力が低く夏用ですが、内部に断熱構造を持つエアーマット(インシュレーテッドマットと呼ばれる)は紅葉時期や厳冬期にも対応できる断熱力を持つものもあります。
世界各国のメーカーによる近年の開発競争はこの分野が中心といえるかもしれません。
特徴
○優れた点
- ザックの中に収納でき、登山歩行中の安全性は高まる
- マット厚がある(5~10cm程度)分、非常に高いクッション性があり、よほど凸凹している場所でも快適に寝れる
- マットの硬さは空気注入量で調整できる
- 製品によってはエアーマット内に特殊な断熱構造を持ち、軽量・コンパクト性を維持しながら、非常に高い断熱力を実現している
- インフレータブルマットのように自動膨張機能が無いため、小さく折りたたみやすく、慣れば山でもほぼ購入時のサイズで収納できる
△気になる点
- バルブの構造がエアーポンプの使用前提の構造(口で入れるのは難易度が高い。エアーマットは同じ縦横サイズでもインフレータブルマットより厚さあり、登山の疲労後に口で入れようとすると、何度も全力で吹き込むことになり、正直フラフラしてくる)の物が多く、エアーポンプが別売だと別途費用&重量が増える
- パンクのリスクがある(補修キットは付属している)。今まで山仲間がパンクさせている話、様子を見てきているが、マットの上でナイフ落とす、少し離れたバーナーの熱で溶着が剥がれる(エアー系マットは熱に弱い)、原因不明で寝ている間に徐々に空気が抜けるなど様々。
- マットが劣化や製品不良で、マット内部の断熱構造と生地が剥がれる”剥離”の現象が起きることがある。マット内部の出来事なので補修キットによる修理は不可能。
- 補修キットが付属していも、結露でマットが濡れている、どこに穴が空いているかわからない、パンクが発覚しているのが夜中(暗い・仲間に迷惑かかる)、登山中に補修の時間を取りにくい、など登山中に修理できないことも多々ある
- 石・草木・土の上に直接置くと、あっさり小さな穴(空気を入れて寝ている間に徐々に空気が抜けるような小さな穴)が開く可能性があるため、基本的にテントの中、シートの上で使うなど、マットの置く場所に気を使う
- 価格がクローズドセルマットより高い
その昔、エアーマットといえば、
- 収納はコンパクトだが断熱力が低く夏だけ使える
- マットが厚い分だけ空気を吹き込む量が多く、登山後に口で膨らませるのはしんどい(フラフラする)
- マットの厚みはあるが、寝心地がフワフワして落ち着かない、落ちそうになる
という理由で、登山用途で人気がありませんでした。
しかし、各メーカーの努力、技術の進化により近年のエアーマットは軽量・コンパクト・高断熱・快適な寝心地を実現しています。
基本的な構造
エアーマット(&インシュレーテッドマット)は、
- 生地(ポリエステル+TPUフィルム)
- 空洞(エアーマット)もしくは断熱素材入り(インシュレーテッドマット)
- 空気を出し入れするバルブ
- 空気注入用エアーポンプ
で構成されています。
化学繊維(ポリエステルorナイロン)の生地に、空気を通さない弾力性のあるTPU(熱可塑性ポリウレタン)と呼ばれるフィルムが貼り合わされたものが使われているようです。(メーカーにより素材は異なるかもしれません)。インシュレーテッドマットは何らかの断熱構造・素材(メーカーや製品によっと異なる)が入っており、その内部構造により、断熱力が大きく変わります。
メーカーによる差
マットには断熱力を表すR値(R-value)とよばれる指標がありますが、内部がエアーのみのマットの性能を見ると、
- エクスペド エアマットHL(内部はエアーのみ、厚さ7.0cm、R値(ASTM)1.3)
- ニーモ テンサー(内部はエアーのみ、厚さ8.0cm、R値(ASTM)1.3)
となっています。
内部がエアーのみのマットは登山においては夏山用で、睡眠する夜中に氷点下になることも多々ある紅葉時期の登山(この時期は太陽の当たりにくい登山道で霜が見られる)には、厳しそうなのが読み取れます。
涼しく山登りしやすい紅葉時期こそ登山が盛り上がる時期のため、この時期のテント泊でも使えるエアーマットとなると、内部に何らかの断熱構造・素材を持つインシュレーテッドマットを選ぶことになります。
各社のインシュレーテッドマットの内部構造
メーカーや製品により内部構造は異なりますが、基本的な工夫の方向性は
- フィルムで内部空間を仕切り、マット内部の空気の対流を抑える(仕切り量と層の増加で断熱力上昇)
- 銀の熱反射フィルムで地面からの冷気を防ぐと同時に体から出る熱を反射(熱反射フィルムの枚数増加で断熱力上昇)
- 断熱素材(化繊綿・ダウン)の封入により空気対流を抑える(断熱素材の厚み増加で断熱力上昇)
となっています。
製品により、仕切り量や熱反射フィルムの枚数、断熱素材の量や質を変えることにより、3シーズン、4シーズン、極寒地対応の断熱力のマットが制作されています。
超軽量・コンパクト・高断熱のインシュレーテッドマットには、銀の熱反射フィルムが積極的に使われていますが、就寝中に体を動かすとフィルミのカサカサ音が発生するため、気になるとのレビューも散見されます。
サイズ選び
エアーマット(&インシュレーテッドマット)は、幅は50cm程度、マットの厚さが60mm~80mm程度(製品により異なる)あり、マットの長さは120cm程度、150cm程度、180cm程度のものが販売されていますが、基本的に180cmの全身用の長さがおすすめです。
例えば、150cm程度のエアマット+枕を考えた場合、エアマット分の厚み以上に枕を高くせねばならず、扱いにくいからです。袋に衣類を詰めて枕を作る場合、マット厚分以上に厚みが必要になり、よほど無駄に衣類を傾向していないとその高さが出にくいです。エアー枕の場合は、ある程度高さは出ますが、エアーマットの厚みを踏まえた枕選びが必要になってきます。
衣類詰めた枕は高さでにくくエアーマットに継ぎ足しにくい(枕がエアーマットより低い)
エアーマットは全身用が扱いやすくおすすめ
使い方
エアーマット(&インシュレーテッドマット)は、マットに厚みがあり、インフレータブルマットのようにある程度の自動膨張機能もありません。
過去何度も、厚さ8cm・長さ180cmのマットを息で膨らませたことがありますが、はっきり言ってかなりしんどいです。
疲れた登山後に全力呼吸で何度も空気を送り込むのはフラフラする可能性あり、連泊する場合「また膨らませないければいけないのか・・・」と負担になりえます。
そのため、エアーポンプ(バッグ)を使うことを強く推奨します。エアーポンプが最初からマットに付属していない場合、ポンプを別途購入(3,000~4,000円程度)した方が良いでしょう。
以下、各メーカーの膨らまし方の動画を掲載しますので、ご参考に。
NEMO | Tensor Ultralight Sleeping Pad
Therm-a-Rest | Inflating Your NeoAir Mattress
Sea to Summit | Ultra Light Insulated Air Sprung Cell Sleeping Mat
以上の動画でエアーポンプ(バッグ)による膨らまし方が理解できたと思います。
その他
エアーマット(&インシュレーテッドマット)は、インフレータブルマットより、収納がコンパクトになります。
価格は15,000~25,000円程度(別途、エアーポンプバッグ3,000~4,000円が必要となる製品あり)となり、高級品です。
マット内部に断熱構造を持つものは積雪期にも対応できるものが多数ありますが、パンクのリスクが付きまといますので、それを踏まえた選択をおすすめします。
- とにかく荷物を小さくしたい方
- マットをザック内に収納したい方
- 岩場の稜線、藪こぎ、アルパインクライミングなど、難易度の高い登山ルートを歩く方
- 寝心地・クッション性を重視したい方
個人的意見
登山用のマット選びをするとき、まず最初にクローズドセルマットかエアー系マットのどちらにするか検討すると良いでしょう。
私自身どのタイプも登山で使ってきていますが、エアー系のマットはその取扱いにそれなりの繊細さが求められます。目視が難し見えないような小さな穴が空いただけでもマットとして機能しなくなります。快適な寝心地への期待感が高いため、パンクした時との落差が大きいです。
大手の登山用品店の情報によると、エアー系マットはおおよそ3~5年程度がメーカー保証期間とされているようです。もちろん、製品寿命は使用頻度や保管環境により大きく変動します。(EXPED社では、最軽量モデルはメーカー保証2年、ある程度強度を残したモデルはメーカー保証5年と記載されています。世界的な業界No.1と言われるThermarest社は寿命の長さに定評あり、ある程度強度を残したモデルは10年程度使った話を2名から聞いています)
エアー系マットを選ぶ際には、パンク時の対処方法も覚えておくことをおすすめします。
ここまで記事を読むと「安価でパンクリスクの無い丈夫なクローズドセルマットで良いんじゃないか」と思う方も多いと思いますが、収納サイズや寝心地の硬さが許容できるならそれが堅実かもしれません。
私の場合、基本的にはコンパクトで寝心地の良いエアー系のマットを持っていきたいところなのですが、状況によってクローズドセルマットと使い分けています。
人気・おすすめの登山用マット
クローズドセルマット、(セルフ)インフレータブル、エアー&インシュレーテッドマットのおすすめ登山用マットをご紹介します。
クローズドセルマットのおすすめ
クローズドセルマット(Closed-Cell Foam Mat)は、英語表記からわかるように、マットの中に閉じられた気泡膜が多数あります。クローズドセルマットの断熱性能は素材・マットの厚さ・気泡膜の細かさ(1つ1つの気泡膜が大きいと膜内の空気が対流し断熱力が低下する)・マットの凸凹加工により決まります。
持ち運びは嵩張るものの、パンクしない絶大な安心感により初心者からプロ(登山家・登山ガイド)まで広く使われているクローズドセルマットのおすすめをご紹介。
サーマレスト Zライトソル
アコーディオンのように折りたたんで収納できる3シーズン用のクローズドセルマットレスです。表側にはアルミを蒸着。アルミ蒸着なしのモデルと比較して、断熱性が20%向上しています。折りたたみ式は広げるのも収納するのも素早くできるので、たとえば短い休憩でも、さっと出してストレスなく使用できます。[出典:thermarest]
S(ショート) | R(レギュラー) | |
---|---|---|
カラー | シルバー/レモン | シルバー/レモン |
大きさ | 51×130cm | 51×183cm |
重量 | 290g | 410g |
材質 | 架橋ポリエチレン | 架橋ポリエチレン |
厚さ | 2cm | 2cm |
収納サイズ (長さ×直径) |
51×10×14cm | 51×13×14cm |
R値(ASTM) | 2.0 | 2.0 |
生産国 | Made in USA | Made in USA |
[出典:thermarest]
2012年発売から数年経過し、今も山で見かけるロングセラーマットです。
amazonに多数のレビューあり、高評価です。(2022/09/28時点:レビュー数3,523件、評価4.6)。
レビューを見ると、登山用途だけでなく、キャンプや車中泊まで幅広い用途で選ばれています。
以下、登山用途で参考となるレビューを一部抜粋。
- 登山家愛用(2012年7月3日):登山家の竹内洋岳さんのザックについている写真を見て、この人が使ってるくらいのものなんだから多分間違いないだろう・・・と思って買いました(笑 今までは普通の銀マットを使っていたので、それとくらべると雲泥の差です。マットの購入で迷っている方は、これを買って損はないと思いますよ。
- 無難。(2021年6月6日):昨日登山で使ってきた。グランドシートと本体の上で使用したが、砂利や石のゴツゴツ感を一切感じさせない商品だと感じた。寝やすいし全く不満はない。持ち運びも1泊2日用のバックパックなら普通にできる。他人と被りたくないとかの理由で下手なマット買うより、安定のサーマレストで落ち着くのが定石。冒険すんなよ凡人。
- 定番のマット(2021年8月27日):何より折り畳めるのがいい!ザックの中に入るものではないけれど軽いからいい!外付けで十分。登山やキャンプに大活躍。
登山家から初心者まで広く愛されているZライトソル。パンクの心配ない、確実に寝れる安心感があります。耐久性あり、3シーズン用でクローズドセルマットを探されている方には一押しです。(もちろん私も使ってます)
「サーマレスト Zライトソル S(ショート)&R(レギュラー)」の購入者レビューと実売価格
サーマレスト Zライトソルについては、別途個別で特集記事も掲載しています。↓
(セルフ)インフレータブルマットのおすすめ
インフレータブルマットは、マット内部にフォーム(ウレタンフォーム、スポンジとも呼ばれる)が溶着されているエアマットです。このフォームによりマット内部の空気対流を抑え、断熱力を発揮します。また、フォームの復元力により、空気を入れるバルブ(栓)を開けると、ある程度マット内に空気が入り、膨らむため、自動膨張式マットレスとも呼ばれます。
パンク・剥離リスクがある以上、軽量・コンパクト性と共に、製品耐久性も踏まえて選択されることをおすすめします。
サーマレスト プロライト
自動膨張式マットレスの中で、軽量でコンパクトなモデルです。空気を均一に含み、軽量でコンパクトに収納できるアトモスフォームを使用した3シーズン用。スタッフサックが標準装備。[出典:thermarest]
S(ショート) | R(レギュラー) | WR(プロライト女性用) | |
---|---|---|---|
カラー | ポピー | ポピー | カイエン |
大きさ | 51×119cm | 51×183cm | 51×168cm |
重量 | 350g | 510g | 510g |
材質 | 50Dミニヘックスポリエステル | 50Dミニヘックスポリエステル | 50Dミニヘックスポリエステル |
厚さ | 2.5cm | 2.5cm | 2.5cm |
収納サイズ (長さ×直径) |
28×8cm | 28×10cm | 28×10cm |
R値(ASTM) | 2.4 | 2.4 | 2.7 |
生産国 | Made in USA | Made in USA | Made in USA |
[出典:thermarest]
サーマレストは1972年創業のマットが主力のメーカーであり、インフレータブルマットを発明した会社でもあります。同社のプロライトシリーズは長年に渡って世界的に支持を受けているインフレータブルマットです。
現状ではこのプロライトよりも、軽量なインフレータブルマットは他社が作っていますが、ここでプロライトを紹介するのはその卓越した耐久性(長年使える)にあります。
インフレータブルマットは、その耐久年数が3~5年程度と言われています。理由は、基本的に口で膨らませるため、マット内部に湿気が入り、加水分解を起こして溶着が剥離してしまうためです。サーマレストは素材が湿気に強く作られているようで、加水分解が起きにくく、結果長く使えると言われています。私は実際にサーマレストのインフレータブルマットを10年以上使っている話を2名から聞いたことがあります。2人とも長年アウトドア関連の仕事に就く知識豊富な登山上級者の方なので、丁寧にメンテナンスしている(1名の方は使ったあとのマットを自宅で膨らませてマットの生地と内部を乾燥させていました)のも長年使えている秘訣と思いました。
空気注入型のマットは、クローズドセルマットに比べて消耗品要素が強いですが、使用頻度にもよりますが、大事にメンテナンスすれば長年使える可能性があり、世界的なトップブランドとなっている理由でもあります。
サーマレストのプロライトは、表面の生地に50D(デニール)ポリエステルが使われています。昨今のウルトラライト製品では20D(数値が小さいほど繊維が細くなる、つまり摩耗に弱くなり、より繊細な扱いが求められてくる)などの化学繊維が使われている中、50Dはしっかり感のある太さです。
内部フォームは軽量化のため、肉抜きされていますが、軽量化と断熱性を両立する斜め抜き(フォームを斜めにカットすることで空気の流れが最小限に抑えられる)になっています。
他社の多くのインフレータブルマットは垂直(円柱状)に肉抜きしますが、サーマレストは肉抜き1つにメーカーの工夫とこだわりが入っています。
サイズは、日本人サイズに該当するのは、
- S(ショート、51×119cm、350g、R値2.4)
- R(レギュラー、51×183cm、510g、R値2.4)
- WR(プロライト女性用、51×168cm、510g、R値2.7)
の3種類です。(Lサイズもありますが、大きすぎて大柄な外国人向きです)
ここで注目していただきたいのが、WR(プロライト女性用)はR(レギュラー)と同じ重量&収納サイズながら、断熱力指標であるR値が0.6高くなっていることです。WR(プロライト女性用)は、体重のかかりやすい背中部分などの肉抜き数を減らすことにより、断熱力が向上しています。
通常のプロライトと女性用では肉抜きの数(上写真の丸い突起の数)が異なる
暑い夏を除いてはマットの断熱力は高いに越したことはありません。女性用は少しマットが短くなりますが、別途枕を継ぎ足すなど工夫で対応できますので、レギュラーよりプロライト女性用がおすすめです。(紅葉登山で使われる方は特に)
プロライトにはプロライト プラス(レギュラーサイズ:51×183cm、650g、厚さ3.8cm、R値3.4)という厚さと断熱力の増した積雪期対応のインフレータブルマットもありますが、重量と収納サイズが増えますので、3シーズンのみの利用であれば通常のプロライトである程度対応できると思います。
万が一のパンク時の修理もしっかり対応してくれるのも魅力の一つです。(日本正規品のみが保証対象、限定保証(5年)、詳しくはこちら)
以下、参考となるレビューを一部抜粋。
- 山小屋で寝袋の下に使用(2022年7月4日):身体178cm、レギュラーサイズで全身をカバーしてくれます。山小屋で寝袋の下に使用したところ、ゆっくり休めました。せんべい布団だけで寝んだ友人は、翌日身体に痛みが出てました。寝袋より大きめで、圧縮出来ませんがゆっくり身体を休めるので購入して正解でした。
「サーマレスト プロライト&女性用」の購入者レビューと実売価格
(※1 通常のプロライトとプラスが混ざって表示されるのでお間違い無いように)
(※2 日本よりアメリカamazonの方が購入者レビューが豊富です)
エアー(&インシュレーテッド)マットの人気・おすすめ
エアーマットは、ポンプで膨らませるマットです。マットの厚みがあり、よほどの凸凹でも感じません。マット内部が空洞なものは断熱力が低く夏用ですが、内部に断熱構造を持つエアーマット(インシュレーテッドマットと呼ばれる)は紅葉時期や厳冬期にも対応できる断熱力を持つものもあります。世界各国のメーカーによる近年の開発競争はこの分野が中心といえるかもしれません。
マット内部がエアーのみのものは断熱力が低く、登山ではあまりに使う時期が限られるため、ここでは3シーズン対応可能な断熱構造を持つインシュレーテッドマットをご紹介します。
サーマレスト ネオエアーXライト
ネオエアーシリーズで最も汎用性が高いマットレスです。トライアンギュラーコアマトリックスと1枚のサーマキャプチャー層(熱反射板)をもつ3シーズンモデル。表側にはソフトで肌触りがよく、滑りにくい生地を配しました。寝返りを打ったときの生地音も少なく、快適な眠りが得られます。女性用モデルはサーマキャプチャー層(熱反射板)を2枚にし、より温かく、快適に使用できます。このモデルにはスタッフサックとリペアキットが標準装備です。[出典:thermarest]
S(ショート) | R(レギュラー) | WR(女性用) | |
---|---|---|---|
カラー | マリーゴールド | マリーゴールド | レモンカリー |
大きさ | 51×119cm | 51×183cm | 51×168cm |
重量 | 230g | 350g | 340g |
材質 | 30D高強度ナイロン | 30D高強度ナイロン | 30D高強度ナイロン |
厚さ | 6.3cm | 6.3cm | 6.3cm |
収納サイズ (長さ×直径) |
23×9cm | 23×10cm | 23×10cm |
R値(ASTM) | 4.2 | 4.2 | 5.4 |
生産国 | Made in USA | Made in USA | Made in USA |
[出典:thermarest]
サーマレスト ネオエアーXライトは、同社のインフレータブルマットのプロライトより、軽量、収納もコンパクトでありながら、高い断熱力を実現していますが、難点は同サイズのプロライトの約2倍くらいの金額であることでしょうか。
マット内部には、空気対流が起こりにくくするため、薄い白いシートもしくは銀色の熱反射板で仕切られています。
この熱反射板は熱を反射する役割(石油ストーブの銀の反射板と同じ原理)なのですが、このマットに寝ているとその反射板のカサカサ音が聞こえるため、音に敏感な方は「音が気になって眠りにくい」ということもあるようです。
マットの厚さは十分あるため、石ゴロゴロの河原等でも快適に寝れるでしょう(もちろん、マットの下にシートがある状態でです)
生地が薄く、取扱にはある程度の繊細さが求められますが、軽量・コンパクト・高断熱・高いクッション性を求められる方には、おすすめです。
マット厚が6.3cmもあり、ショートサイズでマットやザックで継ぎ足すのはやりにくく、全身用を選ばれることをおすすめします。
以下、参考となるレビューを一部抜粋。
- クッション性も良く、暖かいです。(2019年7月9日):登山でのテント泊のために購入しました。夫婦で登山しますので、こちらは妻が使用しております。エアーマットにありがちがフワフワ感も少なく、しっかりと身体を支えてくれます。また、商品説明に、遮熱性能に優れているとの記載がありますが、その通りの、とても優れた性能だと思います。とても軽くて、コンパクトに収納できる点も満足です。サーマレストというブランドイメージを納得させる、とても満足感の高い商品です。
空気を入れるパンプは付属していませんので、膨らませるのには、息を吹き込みます。始めはなかなか膨らまなくて焦りましたが、5回ほど吹き込んで、パンパンになりました。登山時でも、それほど負担には感じない範囲だと思いますが、負担を減らしたい方は、別売りのポンプを購入されると良いかと思います。
「サーマレスト ネオエアーXライト &女性用」の購入者レビューと実売価格
(アメリカのamazonでは評価が高く、多数のレビューが付き、参考になります)
このモデルにはスタッフサック、ポンプサック、リペアキットが標準装備です。
最後に
クローズドセルマットは構造上高い耐久性がありますが、エアー注入式のマットはパンクのリスク、初期不良や数度の使用で剥離することもあります。そのため、エアー注入式のマットを購入するなら信頼性の高いメーカー製のマットを選ぶのが懸命です。
多くの製品が海外メーカー製ですから、日本の代理店で修理やサポートを行っているかも大事です。
あらゆる点で優れているメーカーはサーマレストで、そのためサーマレスト中心の紹介になってしまいました。
エアー注入式マットの場合、1点のわずかな穴でも使い物にならなくなる繊細な道具になります。上記以外にも軽量なマットはありますが、故障率が高い話も耳にします(販売代理店や販売数の多いアウトドアショップでないわからないことも)。
多くの購入者レビューを確認したいなら、日本のサイトより、アメリカのサイト(アメリカのamazon,REIなど)の方がレビュー数が豊富です。出て間もない製品は、海外の方は情報が早いので、調べてみるとよいでしょう。
様々なサイトや購入者レビューを参考に、ぜひ最適なマットを選んでみて下さい(^^)
マット・スリーピングマット
関連の記事
登山用マットを買う前に知っておきたい情報
無積雪期・3シーズン
雪山・冬山
実験・How to
スペック比較
個別製品の紹介
著者PROFILE
2009年末から寝袋と関連装備に特化したこのサイトを開設。いつの間にか運営10年を超える老舗サイトに。ファミリーキャンプから無積雪期登山、厳冬期登山、バイクのキャンプツーリングに自転車旅行、車中泊など、アウトドアを幅広く経験。寝袋の宿泊数は100泊以上~500泊未満。狭い業界ですが、まだまだ知らないこと沢山あり、日々勉強中です☆
谷川岳の雪洞で宿泊
今まで様々な状況下で寝てきましたが、100泊以上経験してわかったのが、『保温力に余裕のある寝袋を用意すること』です。
雪山テントは換気にも注意(テントが埋まると酸欠に)
雨風や断熱材で守られた家と違い、アウトドアフィールドでの宿泊は天候や外気温の変化を大きく受けます。事前の天気予報より、当日の気温が-5℃程度低かった、などは日常茶飯事です。また、多くのキャンプ場は、最寄りの市街地よりも標高が高い事が多く、天気予報で知ることのできる最寄りの市街地の最低気温よりも気温が低いことが多いです。
自然の中で睡眠をとる体験は素晴らしいですが、寝袋の保温力が足りないと真夜中に早朝に目が冷めます。これは外気温は日の出前の早朝4~5時あたりが最も気温が下がり、また体温も下がっているためです。一度このタイミングで目が冷めてしまうと、身体が芯から冷え切っているため、ここからなかなか眠ることができません。そして、寝不足の状態になります。
楽しいアウトドア体験するはずだったのが、思わぬ寝不足でボーーっとしてしまうのは、もったいないです(しかも連泊でこれが続くとかなりキツイです)。少し汗ばむくらいの保温力の寝袋を選んで、ぜひ素敵なアウトドア体験を満喫してください☆
寝袋と(キャンプ用の)マットは2つで1つです。
キャンプ用のマットの役割は主に『断熱』と『寝心地を快適にする』の2つです。
『断熱』について・・・アウトドア用の寝袋の中綿として、化繊やダウンが使われていますため、小さく圧縮して収納し持ち運ぶ事ができます。寝袋を収納袋から出して広げると、徐々に中綿が膨らみますが、人間が寝袋に入ったときに身体と地面に挟まれた中綿はぺちゃんこに潰れるため、断熱力がほとんどなくなります。大概の地面は冷たく、身体の重みで密着した部分から体温が逃げ(ヒートロス、熱損失)て、底冷えします。この現象は、体温と地熱の温度差が大きい春・秋・冬ほど熱損失量も増えます。
これを防ぐため、キャンプ用のマットを使います。キャンプ用のマット体重がかかっても断熱効果が得られるよう設計されています。
『寝心地を快適にする』について・・・最近、畳の上で寝たことはありますか?痛くて寝れなかったという方もいるのではないでしょうか。昨今の快適用品の普及により、強い刺激に敏感になっています。よほどふかふかの芝生以外、寝袋のみで寝ると地面の凸凹や石があたって痛くてまともに寝れません。その衝撃を吸収する役割としてキャンプ用マットが使われます。キャンプ用マットは大きくクローズドセルマット(銀マットなど)とエア注入式の2種類あり、寝心地はエア注入式の方が良いです。
テントの中で寝袋の下に敷くマットは、様々な用途に合わせて、多数の商品があります。皆さんの用途にあった、快適に寝れるマットが見つかりますように☆
2020年より、大手メーカーにおいて、マットの断熱力(R値,R-value)測定に標準化規格『ASTM F3340-18』が採用されるようになりましたので、一部R値を更新しました。『ASTM F3340-18』のR値にはR値(ASTM)と記載しています。各メーカー独自の評価には、R値(メーカー独自評価)と記載することにしました。(正確に他メーカーとR値比較できない)(R値の詳細はこちら、ASTM F3340-18の詳細はこちら)