2020年、モンベルから隔壁がなく、縫い目が少ない革新的な構造『スパイダーバッフルシステム』を採用した寝袋・シュラフが発表されました。
『スパイダーバッフルシステム』を採用されたのは、以下の2モデルになります。
隔壁無しのスパイダーバッフルシステムを採用した、2モデルが発売されました。
- シームレスドライダウンハガー900(表地:ゴアテックス(防水)、中綿:900FPダウン)
- シームレスダウンハガー900(中綿:900FPダウン)
隔壁(バッフル)とスパイダーバッフルシステム
隔壁(バッフル)とは?
市販されているダウン寝袋の多くに隔壁(バッフル)と呼ばれる仕切りが多数入っています。
隔壁(バッフル)は空気は通すがダウンは通らない程度のメッシュ構造の薄い生地となっていて、寝袋内部のダウンが偏ってコールドスポット(保温力が低下した場所)の発生を防ぐため、寝袋の内部空間を仕切り、ダウンの入った小さな部屋をたくさん作ります。隔壁(バッフル)が無いと、通常、ダウンは重力の影響で背中部分、足元部分に溜まります。(メーカーによって、この仕切り方・小さな部屋の作り方が異なっていてます)
モンベル ダウンハガー800 #3
モンベルのダウン寝袋の場合、上の写真のように、斜めの縫い目の内部にダウンを仕切る隔壁が入っています。外からは見えませんが、ダウン除けて外側から触るとザラザラとメッシュ状の生地が入っているを確認できます。
この隔壁のお陰で、ダウンが大きく偏らず(多少の偏りは致し方ない)、設計で意図した保温力を維持できるようになっています。その反面、この隔壁があることにより、
- 寝袋の表地に多数の針穴が発生するため、多少の保温ロスが発生
- 隔壁の高さで嵩高が制限されてしまうため、保温力の鍵となるロフトが多少制限される
など、課題が残されていました。
スパイダーバッフルシステム
2020年に発表されたモンベルのスパイダーバッフルシステムは、この隔壁を無くし、その代わりにスパイダーヤーンと呼ばれる特殊な糸にダウンを絡めとる構造になっています。
ダウンを絡めとる特殊な糸「スパイダーヤーン」 [出典:モンベル]
隔壁に代わる方法を模索する中で、解決の糸口となったのは、「蜘蛛の糸」。「蜘蛛の巣のように、糸にダウンを絡みつかせれば、隔壁がなくてもダウンの片寄りを防げるかもしれない」。このひらめきを元に、ダウンを絡めとる特殊な糸を開発。「スパイダーヤーン」と名付けたこの糸をスリーピングバッグ内部に張りめぐらせることで、全体に一定量のダウンを均一に保持することに成功しました。画期的なスリーピングバッグ構造「スパイダーバッフルシステム」の完成です。[出典:モンベル]
そして、この「スパイダーバッフルシステム」を採用したモデルが以下2モデルになります。
- シームレスドライダウンハガー900(表地:ゴアテックス(防水)、中綿:900FPダウン)
- シームレスダウンハガー900(中綿:900FPダウン)
モンベルショップで試着体験記
意気揚々と見に行ったら・・・
モンベルから革新的な構造の寝袋が発売された、と店舗に見に行きました。そしたら、寝袋売り場に新作(シームレス ドライ ダウンハガー900 #3)が吊り下げられて展示されていて、「お、あれだ!」と近づいていったら、ダウンがめっちゃ下に落ちててビックリ。
モンベルショップで展示品(吊り下げ)の状況
え?!スパイダーヤーンでダウンを保持って書いてあったけど、一体どういうこと?となりました。カタログを改めて見ると、
隔壁に代わる方法を模索する中で、解決の糸口となったのは、「蜘蛛の糸」。「蜘蛛の巣のように、糸にダウンを絡みつかせれば、隔壁がなくてもダウンの片寄りを防げるかもしれない」。このひらめきを元に、ダウンを絡めとる特殊な糸を開発。「スパイダーヤーン」と名付けたこの糸をスリーピングバッグ内部に張りめぐらせることで、全体に一定量のダウンを均一に保持することに成功しました。画期的なスリーピングバッグ構造「スパイダーバッフルシステム」の完成です。[出典:モンベル]
「全体に一定量のダウンを均一に保持することに成功」・・・全部スパイダーヤーンで保持されていると思っていたら、カタログにちゃんと書いていました、一定量のダウンを保持と。つまり、スパイダーヤーンで保持された一定量以外はフリー(ダウンがどこにでも動ける)状態です。
この一定量、私の見立てでは、おそらくシームレス ドライ ダウンハガー900 #3の場合、全ダウン使用量の半分くらいはフリーなのでは?と感じました。(後日、モンベルに問い合わせたところ、それほど相違ないとの回答でした)
外観チェック&試着してみる
展示のシームレス ドライ ダウンハガー900 #3の細かくチェックしてみます。表地は完全防水のゴアテックス生地ですが、縫い目のある部分はしっかりシームテープ処理されています。(ここら辺は高いレインウェアの縫製技術を持つモンベルならではの安心感を感じさせます)
そして、足元に溜まったフリーのダウンを上半身側に動かそうとバサバサしてみたら・・・あんまりサクサク動かない。。。フリーのダウンが動きにくいのはおそらく張り巡らされたスパイダーヤーンがあるからでしょう。
実際に寝袋に入ってみて、寝心地、伸縮性を確認しましたが、ゴアテックス生地でも伸縮性がありました。
未使用での意見ですが
あくまで店舗で1度、確認&試着した経験での個人的意見です。(より実践的なレビューをお探しの方は別途ネットで検索してみてくださいね☆)
一度フリーのダウンが動くと保温力の最適化難しそう(玄人向き?)
隔壁が無いため、スパイダーヤーンで保持されいているダウン以外のフリーのダウンは、どこにでも動いていきます。スパイダーヤーンが張り巡らされているため、簡単に動く訳ではありませんが、一旦動いてしまうとそこから調整するのは難しそうです。生地が透明で無いため、どの部分にダウンが溜まって、どの部分がダウンが逃げてコールドスポットとなっているか、外見からなかなかわかりません。
店舗の展示の吊り下げてダウンが落ちていましたが、実際のアウトドア使用でどの程度偏るかは、実際テストしてないのでわかりませんが、おそらく生地の圧力(重み)がかかっていない状況、展示のように垂直に近い状況で置かれると、フリーのダウンがふわ~っと容易に動いてしまうと思われます。
例えば、登山後に湿った寝袋を干しますが、布団を干すようにベランダに吊り下げると、重力方向にダウンが落ちてしまう可能性が高いです。
また、洗濯後のダウンの偏り解消も気になります。ダウンの寝袋は通常の隔壁ありの寝袋でもある程度のダウンの偏りが発生します。それは、「ダウンは濡れると束(玉)になる」という特徴があるためです。洗濯では、洗濯水により寝袋内部のダウンが一度纏まって束(玉)になり、乾燥(自然乾燥よりコインランドリーでの機械乾燥を推奨)によりまた膨らむ、というプロセスを踏みます。
隔壁ありの寝袋であれば、隔壁で別れた小部屋内のダウン同士が束(玉)になり、乾燥機にかけても小部屋内部で多少のダウンの偏りが残り(玉の部分から広がっていくため)、場合によっては手で玉になっている部分を確認してほぐすこともあります。(今まで何度もダウン寝袋を洗濯してきた経験より)
「スパイダーバッフルシステム」の場合は部屋が区切られていないため、隔壁ありの寝袋に比べて、洗濯時にフリーのダウンが大きな束(玉)になることが想定され、乾燥後にどれだけコールドスポットが無いようにダウンが広がってくれるか、というのは未知数です。また、ダウンが偏ってしまった場合、コールドスポットが発生しないように、手作業で調整するのは、中身が見えない、スパイダーヤーンで思うように動かない、があり熟練が必要かもしれません。
シームレス ドライ ダウンハガーの洗濯
表地にゴアテックスを使用したシームレス ドライ ダウンハガー900シリーズに関しては、上記の洗濯後のダウンの偏り調整以外にも、そもそも、防水生地なので洗濯しにくい、という事情があります。
実は、防水生地を使った寝袋というは、寝袋業界でもかなり希少です。この件に関しては、以前記事を書きました。
この中で、防水透湿性素材を使うと、メンテナンスが面倒になる、と書いていますが、シームレス ドライ ダウンハガーはこれに該当します。
この件に関して、モンベルに問い合わせたところ、以下回答を得ました。
- 洗濯は寝袋の表裏を反対にして、もみ洗いで。
- 洗濯後は、防水生地により洗濯機の遠心力による脱水はできないため、タオル等で水分を拭き取る(ただし、この方法だと水分が多く残る)
- 家庭用の電気を使用した乾燥機では乾燥力が弱く、ガスを使用(燃料と)したコインランドリーの乾燥機を使って下さい
なお、一般的なダウンの寝袋の洗濯に関しては以下、ご参考に。
需要のある#3の保温力モデルで比較
最も需要のある#3の保温力モデルで比較してみたいと思います。
- シームレスドライダウンハガー900#3(価格:¥57,000(+税)、重量:565g、表地:13デニールナイロン+ゴアテックス(防水)、裏地:7デニールナイロン、中綿:900FPダウン)
- シームレスダウンハガー900#3(価格:¥44,000(+税)、重量:512g、表地・裏地:7デニールナイロン、中綿:900FPダウン)
- ダウンハガー800#3(価格:¥30,000(+税)、重量:595g、表地・裏地:10デニールナイロン、中綿:900FPダウン)
上記モデルは、カタログ上の保温力は同じです。尚、収納サイズの比較は圧縮袋である程度可変できるため割愛します。
比較基準となるダウンハガー800#3とシームレスダウンハガー900#3の比較すると、重量差は83g、価格差は¥14,000です。正直、重量差はそれほどありませんので、あえてシームレスダウンハガー900#3を選ぶ方は、個性的な「スパイダーバッフルシステム」を使いこなす気概がある方かな、と思います。
ダウンハガー800#3とシームレスドライダウンハガー900#3を比較すると、重量差は30g、価格差は¥27,000です。防水対策を考えて、シュラフカバーを別途用意するとゴアテックスに相当する軽量なものでも200程度増えますから、装備全体の軽量化・コンパクト化としては大きく貢献します。¥27,000という価格差も容認できる方もいるかと思います。
スパイダーバッフルシステムの個性や防水透湿性素材を使った寝袋のメンテンナンスの手間を理解した上で、シームレスドライダウンハガーを選ばれる方もいるのでは、と思います。
最後に
個性を知って上手に使いこなす
「スパイダーバッフルシステム」は個性的ではありますが、フリーのダウンが多数あるため、
- 寝たときに潰れる背面のダウンを上側に持っていき、効果的に保温力を上げる(ただし、寝袋ごと寝返りした場合は背中冷えるため、上級者向き)
- 上半身はダウンジャケット等で厚着して寝るため、フリーのダウンを下半身側に集めて使う
など、個人の用途に応じて寝袋の部位によって保温力を加減することが可能です。
開発者の苦慮・調整が伺える
新開発のスパイダーバッフルシステムを採用しながら、既存のモデル(ダウンハガー800モデル)のスペックを超えられるように細かく調整されているのが、カタログからも伝わってきました。(新開発である以上、既存モデルの何かを超えることが求められます)
このスパイダーバッフルシステムも、今後、ユーザーの声等反映して、リニューアルされるかもしれません。
今後使用者レビューもネット上に掲載されていくと思います。購入を検討されている方は他のサイトもぜひ参考にして検討してみてください。
既存の技術に留まらず、先進的に挑戦しつづけているモンベルを今後も応援しています☆
関連ページ
- モンベルの寝袋・シュラフの失敗しない選び方
- 山岳・登山向け3シーズン用のダウン・化繊綿の寝袋おすすめ一覧
- 山岳・登山用の寝袋・シュラフの選び方の基本(無積雪期)
- 失敗しない寝袋選びの無料診断(質問形式、用途別、保温力別)
外部ページ
- (モンベル)ダウンの保温力を引き出す、世界初の構造「スパイダーバッフルシステム」採用スリーピングバッグ
- Special Contents: Seamless Down Hugger | Montbell Euro
著者PROFILE
2009年末から寝袋と関連装備に特化したこのサイトを開設。いつの間にか運営10年を超える老舗サイトに。ファミリーキャンプから無積雪期登山、厳冬期登山、バイクのキャンプツーリングに自転車旅行、車中泊など、アウトドアを幅広く経験。寝袋の宿泊数は100泊以上~500泊未満。狭い業界ですが、まだまだ知らないこと沢山あり、日々勉強中です☆
谷川岳の雪洞で宿泊
今まで様々な状況下で寝てきましたが、100泊以上経験してわかったのが、『保温力に余裕のある寝袋を用意すること』です。
雪山テントは換気にも注意(テントが埋まると酸欠に)
雨風や断熱材で守られた家と違い、アウトドアフィールドでの宿泊は天候や外気温の変化を大きく受けます。事前の天気予報より、当日の気温が-5℃程度低かった、などは日常茶飯事です。また、多くのキャンプ場は、最寄りの市街地よりも標高が高い事が多く、天気予報で知ることのできる最寄りの市街地の最低気温よりも気温が低いことが多いです。
自然の中で睡眠をとる体験は素晴らしいですが、寝袋の保温力が足りないと真夜中に早朝に目が冷めます。これは外気温は日の出前の早朝4~5時あたりが最も気温が下がり、また体温も下がっているためです。一度このタイミングで目が冷めてしまうと、身体が芯から冷え切っているため、ここからなかなか眠ることができません。そして、寝不足の状態になります。
楽しいアウトドア体験するはずだったのが、思わぬ寝不足でボーーっとしてしまうのは、もったいないです(しかも連泊でこれが続くとかなりキツイです)。少し汗ばむくらいの保温力の寝袋を選んで、ぜひ素敵なアウトドア体験を満喫してください☆
寝袋と(キャンプ用の)マットは2つで1つです。
キャンプ用のマットの役割は主に『断熱』と『寝心地を快適にする』の2つです。
『断熱』について・・・アウトドア用の寝袋の中綿として、化繊やダウンが使われていますため、小さく圧縮して収納し持ち運ぶ事ができます。寝袋を収納袋から出して広げると、徐々に中綿が膨らみますが、人間が寝袋に入ったときに身体と地面に挟まれた中綿はぺちゃんこに潰れるため、断熱力がほとんどなくなります。大概の地面は冷たく、身体の重みで密着した部分から体温が逃げ(ヒートロス、熱損失)て、底冷えします。この現象は、体温と地熱の温度差が大きい春・秋・冬ほど熱損失量も増えます。
これを防ぐため、キャンプ用のマットを使います。キャンプ用のマット体重がかかっても断熱効果が得られるよう設計されています。
『寝心地を快適にする』について・・・最近、畳の上で寝たことはありますか?痛くて寝れなかったという方もいるのではないでしょうか。昨今の快適用品の普及により、強い刺激に敏感になっています。よほどふかふかの芝生以外、寝袋のみで寝ると地面の凸凹や石があたって痛くてまともに寝れません。その衝撃を吸収する役割としてキャンプ用マットが使われます。キャンプ用マットは大きくクローズドセルマット(銀マットなど)とエア注入式の2種類あり、寝心地はエア注入式の方が良いです。
テントの中で寝袋の下に敷くマットは、様々な用途に合わせて、多数の商品があります。皆さんの用途にあった、快適に寝れるマットが見つかりますように☆