【2024年更新!】 私自身の今までの知識・経験の集大成として、山岳・登山用の寝袋の選び方の基本をまとめることにしました。
- 商品を探していろいろ調べた結果、どれが良いかわからなくなってしまった
- カタログに掲載れている特徴や数値の意味がわからない
といった方でも、このページを最後まで読めばある程度理解できるようになるのではないか、と思います。
- 今まで日帰り登山だけだったけど、テント泊に挑戦してみたい
- 山小屋の混雑を避けるために、テント泊を始めたい
といった方が対象ですので、もちろん内容は無積雪期の登山を想定しています。(※積雪期(雪山・冬山)の寝袋選びについては世界が異なりますので、詳しく知りたい方はこちらを御覧ください)
著者PROFILE
経歴:大手アウトドアショップで寝袋・マットのコーナーを中心に約4年間の接客経験に加え、独自の調査・研究を重ね、寝袋・マットの情報を中心としたこのサイトを運営して10年以上。無積雪登山・雪山登山・クライミング・アイスクライミング・自転車旅行・車中泊旅行・ファミリーキャンプなど幅広くアウトドアを経験。(詳細プロフィール) 名前:Masaki T
最初はこんなに書く予定ではなかったのですが、あれもこれもと書いていたら結果的にかなりのボリュームになってしまいました。メーカーによって各部位の日本語での呼び方が異なり(例:ファスナー、ジッパーなど)それを包括するように書いたため、多少読みにくいところもあると思いますが、ご了承ください。
※前置きの解説が非常に長いです。具体的な商品をすぐ確認したい方は、下記ページ内リンクをクリックして下さい。
山岳・登山向けの寝袋に求められる性能
まず、寝袋を選ぶのに何が大切なのか、を知っていると選びやすくなります。
軽量性
登山ではザック(リュック)に荷物(もちろん寝袋も)を入れて背負って登ります。荷物が軽ければ軽いほど、体への負担も減り、上り下りが続く山道の歩行も楽になります。(実は、寝袋は歩行中は全く使わない山道具です。キャンプ地・テント場に着いて、テントを設営してようやく出番が訪れます。)そのため、寝袋に限ったことではありませんが、軽量であることが登山での動きやすさに繋がります。
コンパクト性
荷物の大きさが小さければ小さいほどザックの容量(大きさ)も少なくて済み、結果的に軽量化に繋がります。それだけでなく、コンパクトであれば、荷物を背中に近づけることになり、歩行中にバランスを取りやすくふらつきを軽減します。
南八ヶ岳 赤岳-横岳-硫黄岳 縦走ルート
より難易度の高い段差の大きな岩場歩きや鎖場(滑落の危険性が高い場所に歩行を補助する目的で設置された金属の鎖・チェーン)の登山ルート、崖のような場所をカラビナとロープで確保しながら登っていくアルパインクライミングではコンパクト性の重要度が増します。
登山用の寝袋は、その保温力の割に非常にコンパクトに作られています。キャンプ用の寝袋に見慣れている方が登山用の寝袋を見ると「すごく小さい!」と驚かれることもしばしば。収納に関しては、最初から高い圧縮率で収納できるような収納袋のため、慣れない方は寝袋本体の収納に手間取ります。
耐久性
登山用の寝袋は、軽量性とコンパクト性に重きを置くため、耐久性に関しては必要十分な程度に留められています。もちろん、収納・睡眠・撤収に耐えうる耐久性は考慮されていますが、中綿を包む生地は中綿がうっすらと透けて見えるほどに薄く、かぎ裂きや強い摩擦には注意しなければいけません。
3つの異なるメーカーの寝袋の生地(表地)
特に注意しなければいけないのは火の粉やバーナー熱で、生地には極薄のナイロンやポリエステルが使用されていますがゆえに、すぐに穴が空いてしまいます。穴が空いた場合は中綿がダウンだと、穴からどんどんダウンが飛び出してくるため、テープのような物で取りあえず穴を塞ぎ、下山したらメーカーに問い合わせて修理を依頼しましょう。
快適性
寝袋に入ったときの快適性(寝心地・寝やすさ)も、高い保温力と軽量・コンパクト性に重きを置くため、必要最低限に留められています。登山用の寝袋は、マミー型とい言われるミイラのような人間の形状に沿ったような形をしています。マミー型は、効率的な保温ができ、無駄な重量が増えない構造ですが、下半身が細くなっていくため両足を広げた大の字で寝ることができず、慣れるまである程度窮屈に感じます。
また、スライダー(ジッパー)の長さは出入りと温度調節のしやすさに繋がり、頭と首周りの構造や寝袋の外気温が寝袋の保温力(リミット温度)に近づいてきた時にその重要性が増してきます。
まとめ
山岳・登山用の寝袋を一言でまとめると”軽量・コンパクト性を重視した寝袋”と表現できます。
価格は、快適性が重視され数千円で購入できる(ファミリー)キャンプ向けの寝袋と大きく異なり、登山用の寝袋は特定の保温力を実現するため、最先端の技術や素材を投入して、各社しのぎを削っているのが現状で、価格も1万円以上とキャンプ向けより高くなります。
各性能のバランスは、メーカーやモデルによって異なります。
素材
登山用の寝袋を構成する素材(生地・中綿)について簡単に解説します。
生地
繊維
登山用の寝袋の生地は、表地(外側の生地)と裏地(内側の生地)があります。製品によっては、表地と裏地で異なる繊維の太さや素材を使っている場合もあります。生地として、主に使われている素材は極細のナイロンとポリエステルで、ハイエンドモデルはほぼ引き裂き強度・耐摩耗性に優れた特殊な極細のナイロン繊維が使われています。
織り方
繊維の織り方は、格子状に繊維が織り込まれたリップストップになっています。
リップストップ生地
より強度のある格子状の部分で裂け目が広がらないような構造になっています。メーカーによって、リップストップの大きさは異なり、中には虫眼鏡でないと確認が難しいものもあります。
撥水加工
寝袋の生地に霧吹きすると撥水する
登山用の寝袋の生地のほとんどは撥水加工が施されています。上の写真は個人所有の登山用の寝袋(左:マウンテンイクイップメント、右:モンベル)に霧吹きした後の写真です。(右のモンベルの寝袋は2012年に購入して主力で何度も使っているものですが2018年時点でまだ撥水しています。)
登山用の寝袋において生地の撥水は非常に重要な性能です。それを理解するには逆に濡れてしまうとどうなるか、ということを知らねばなりません。現状、登山用の中綿として一般的なのはダウンです。ダウンは水濡れしてしまうと保温力が低下してしまうため、生地からの浸水は極力避けたいのです。生地が一度濡れると、携行するときの重量が増えるだけでなく、収納袋に入れた時に濡れが広がってますます保温力の低下に繋がります。また、湿った寝袋で寝るのは心地よいものではありません。
寝袋が濡れる状況として、
- 大雨によるテント内の浸水
- 前日が雨で、既にテント内部、マットが濡れている(実際、テントの内側の生地は寝袋と触れ、マットとは圧着します)
- 横殴りの雨で、テントの出入り口から強風とともに雨が吹き込んでくる
- 雨でのテントの出入り(トイレなど)で、自分のレインウェアがベチャ濡れで、着脱時にテント内に水滴が飛び散る
- テント内の生地が結露で濡れ、強風でバタつき、テント内に結露の雨が降る
- 飲み物・鍋をこぼす(登山では食事と水分補給を兼ねて鍋・ラーメン等を食べることが多い)
などがあり、何度も山行を重ねると濡れやすい状況というのが多々あるとわかってきます。
テント内の浸水やマットの濡れには撥水加工では対処できませんが、多少の雨の吹込み、結露、水物こぼしに関しては、この生地の撥水加工によりある程度対処できます。ここで大切になってくるのは寝袋が濡れたとわかったら、できるだけすぐ乾いた布等で拭き取ることです。拭き取らないと、そのまま水が寝袋に沿って流れ落ちマットが濡れます。マットが濡れると、圧着して生地に水圧がかかった状況になるため、しだいに生地が濡れ、中綿もしめっていきます。
撥水と防水は違います。撥水はやさしく水が乗った時に弾く性能で圧力がかかると通過します。防水性能はアウトドア業界では主に耐水圧(直径10cmの円柱に入れた水の何mmの高さの水圧まで耐えられるか)で表記され、その耐水圧付近まで浸水しません。
そのため、撥水では完全に水濡れを防げませんが、一時的な水濡れには十分有効です。
(※経験上、多少の雨でも登山へ行く、2泊以上の登山が多い方は落ち着いて寝るためにシュラフカバーの携行をおすすめします。>>>詳しくはこちら)
中綿
現状、中綿(生地の内部に封入される保温材)として利用されているのは、ダウンと化繊(化学繊維)です。
山岳向け寝袋の中綿の主流は軽量・コンパクトになるダウンです。
ダウン
抜けてきたダウンを撮影してみました
山岳・登山用の寝袋の中綿として、広く普及しているのは鳥の羽であるダウンです。大きく分類するとグースダウン(がちょう)とダックダウンの2種類あり、グースダウンの方が羽が大きく、単位グラムあたりの膨らみも良く、羽自体の撥水力も最初から高いと、とあるメーカーの方から聞いています。そのため、ハイエンドモデルの寝袋には、グースダウンが使用されています。
ダウンの性能はフィルパワー(Fill Power,FP)で表現されます。フィルパワーとは、1オンス(約28.4g)のダウンをシリンダー内で圧縮し、一定の温度、湿度の条件下で、それが何立方インチに復元するかを測定したものです。フィルパワーの数値が高いほどダウンの空気含有量が多く、その大量に含まれる空気の断熱効果によって保温性に優れるため、数値の高いものほど高品質なダウンとされています。一般的に500フィルパワー以下は低品質ダウン、600~700フィルパワーで良質ダウンとされ、700フィルパワー以上は高品質ダウンとされています。
ダウンは、単位グラムあたりの保温力、圧縮率(どれだけ小さく収納できるか)、復元力(カチカチに圧縮した状態からどれだけ膨らむか)、耐久性(使用年数・頻度による性能の劣化しにくさ)が非常に優れていて、化学繊維で超えることができていないのが現状です。
高い圧縮率の収納袋から、ダウンの寝袋を取り出すとしばらくはペチャンコに潰れていますが、徐々に膨らんできます。そして、人間が寝袋に入ると次第にダウンが膨張していきます。夜中にトイレでテントの外へ出ようとすると、隣で寝ている仲間のダウンの寝袋がパンパンに膨らんでいるのを何度も見てきました。このような、温度に反応して自然に膨張するような特性は、化学繊維にはほとんど見られません。
また、数値で表現できない部分では、同程度の保温力のダウンと化繊の中綿が異なる登山用の寝袋に入り比べると、化繊の寝袋は「寒くはないが暖かくもない」という少し冷たい感じがするのに対し、ダウンの寝袋は入ってすぐにふわった暖かくなる”ぬくもり”が感じられます。
ダウンの羽毛を拡大すると、太い羽毛(羽枝:うし)の先にも小さな羽毛(小羽枝:しょううし)が無数に生えているのが確認できます。この羽毛が対流しにくい空気を抱える(通称:デッドエア)ことで高い保温力が実現できています。
ダウンの気になる点として、
- 濡れると保温力が低下する
- 洗濯すると寝袋内のダウンが多少偏る
- 命の上に成り立っている
があります。
ダウンは濡れると、空気を抱えている羽毛が閉じて(他の羽毛と密着し束になる)保温力が低下します。ダウンは水濡れしないように配慮が必要になってきますが、近年では封入するダウンに撥水加工された寝袋や、ダウン用の撥水剤でこの水濡れによる保温力低下を軽減することができます。撥水加工されたダウンは、保温力が低下しにくくなるだけでなく、湿った状態からの乾燥も早くなります。
また、洗濯すると、ダウンがグシュっと濡れていくつもの羽毛が集まった固まりになり、乾燥機にかけると固まりの部分から膨らむため、ダウンの広がりにムラができて、コールドスポットとよばれる他の部分より中綿が薄く断熱力が低下した部分が発生しやすくなります。特に細いチューブ状の部分に発生しやすく、乾燥後に手でほぐして散らす作業が発生します。
最後に、ダウンは工業的に作られた物ではなく、鳥の命の上に成り立っていることです。そのため、ダウン製品を選ぶ場合は、そのことを理解して、大切に扱ってほしいと思います。ダウン製品を長く使うために特に大切なことは、使用後にしっかりと内部まで乾燥させることです。湿った状態で保管するとカビの発生などダウンが著しく劣化する可能性があります。
化学繊維
ファミリーキャンプ等の寝袋では化学繊維の中綿は多用され一般的ですが、山岳・登山用の寝袋として使われているのは少数派なのが現状です。
ダウンに比べた化繊の中綿の優れた点は、
- 繊維自体が全く保水しないため、万が一濡れても乾きやすい
- 濡れても膨らみがほとんど変わらず保温力も低下しにくい
- 洗濯などメンテナンスがしやすく、洗濯後の偏りも発生しない
というところでしょう。単位グラムあたりの保温力や、コンパクト性、復元力、耐久性、寝心地などがダウンに劣っても、あえて化繊綿を選ぶ方もいます。
例えば、
- 長期間の山行が多く、いままでダウンの濡れによる保温力低下に悩まされてきた方
- 沢登り、カヤック・カヌーなど水濡れのリスクが高いアクティビティをする方
が挙げられます。
現在、数あるアウトドアメーカーの中で登山用の寝袋として使えるレベルの化繊綿の開発に注力しているのは、ファイントラック、マウンテンハードウェアです。その特徴は製品紹介のところで記載したいと思います。
ファスナー
ファスナー(アメリカではジッパー、日本では昔はチャックとも呼ばれた)は山岳・登山用のほとんどの寝袋に使用されていて、ファスナーの長さは出入りのしやすさや温度調節のしやすさに繋がり、短いものはその分だけ部材が少なくなるため寝袋全体の軽量化に繋がります。
ファスナーの構造
ファスナーは、スライダー(開閉部分)、エレメント(務歯)、テープの3つの部品で構成しています。
- スライダー:ファスナーを開閉する部品
- エレメント(務歯):歯車の原理でかみ合う部品
- テープ:ファスナー専用に作られている
ファスナーは日本では右側が主流
実は欧米では、マミー型の寝袋のファスナーは左側(左ジッパー)に付いているのが主流です。しかし、日本では右側(右ジッパー)が主流です。
海外メーカー製は左ジッパー
日本人より骨格が太く、身長も大きく、腕も長い欧米人は右手で右ジッパーを開けようとすると、胸元が窮屈になり開けにくいため、手を伸ばして開けれる左ジッパーになります。(下の動画参照)
しかし、日本人の場合、右手で右ジッパーを難なく開け締めできる体格の方がほとんどのため、右ジッパーが一般的になっています。
登山用の寝袋のファスナーはYKK製が主流
山岳・登山用の寝袋に使用されているファスナーは、そのほとんどがYKK製です。海外メーカーでもYKK製のファスナーが採用されています。
登山用の寝袋のファスナーは、小さな収納袋にギューっと収納されるため、ファスナーに様々な方向への強く屈曲する負荷がかかります。もしファスナーが故障してしまうと開閉ができなくなり寝袋の保温力が著しく低下してしまいます。今までに寝袋やアウトドア用品に関する様々な記事・レビューを読んできましたが、他メーカーのスライダーを採用した製品のレビューに「ファスナーが壊れました、YKK製にしてほしい」と書かれたのを度々目にするくらい、信頼性が高いです。
YKK製のファスナーでも、スライダーの引手(つまむ部分)の構造はメーカーにより異なります。
ファスナーの種類
ファスナーには、大きく分けて3種類あります。
- 金属ファスナー:エレメントが金属でできている。厚手の生地や開閉頻度の多いカバンや財布に使用される。
- ビスロン(デルリン)ファスナー:樹脂製のエレメントがテープに射出(しゃしゅつ)成型されている。デザイン性に優れるが強い屈曲・カーブに不向き。
- 樹脂(コイル)ファスナー:エレメントがコイル状の樹脂でできている。金属・ビスロンに比べ屈曲に強く、薄く軽い。
そして、登山用の寝袋に使用されるファスナーの種類は、ほとんんどが樹脂(コイル)ファスナーです。
軽量で収納時の強い屈曲にも耐えられる樹脂(コイル)ファスナー
逆開(両開き)
登山用寝袋に採用されているのは、ほとんどが逆開(両開き)ファスナーというスライダーが首元1個と足側1個の合計2個付いていて、両方から開閉できるようになったものです。ただ、ファスナーを完全に開放する(両側を切り離す)のは足元の側になっているのが多いようです。
ロック機構のあり、なし
また、スライダー(手でつまんで開閉する部分)には、ロック機構が付いたもの(引手をつまんで動かさないとスライダーが動かない)と、ロック機構が無いもの(両方のテープを引き離すだけでスライダーが動き開いていく)があります。緊急時にすみやかに寝袋から脱出できることを重視するメーカーはロック機構なしスライダーを採用し、利用者が指定した場所で止まり開け具合を固定して調整する利便性を重要視するメーカーはロック機構のスライダーが採用されるようです。
スライダーと生地の噛み込み
寝袋のYKKファスナーが壊れた、という話は今まで耳にしたことがありませんが、スライダーが生地を噛み込んでしまうことは度々あります。噛み込んだ状態で無理して動かして生地が裂けてしまったということも聞いたことがありますので、生地を噛み込んだ場合は生地をやさしく引きながらスライダーゆっくり後ろに下げると、噛み込みがほどけます。
最近では生地の噛み込みしにくい構造になっているスライダーが採用されているモデルが増えています。
噛み込みを軽減スライダー(モンベル)
ファスナーの長さ
ファスナーの長さはメーカーやモデルにより異なります。足首付近までスライダーが伸びているものは、寝袋の出入りがしやすく、温度調整もしやすいです。私は少し暑いときファスナーをすべて開放(フルオープン)して毛布のように上からかけて使うことが度々ありますが、ファスナーが短い製品はこれができません。
寝袋のファスナーが短い(頭~お尻の間)ものやファスナー自体が無いものは、用途が明確な中上級者向けの製品と言えます。
サイズ:寝袋の大きさ
服を選ぶ時、皆さんS,M,L,XLといったサイズの中から自分の身体にあったものを選ぶと思いますが、寝袋の場合はそこまで細かく用意されていません。
メーカーによって多少異なりますが、レギュラーサイズが基本で、売れ筋の保温力に限ってロングサイズやショートサイズが用意されている程度です。
カタログに様々なサイズを表す数値が掲載されていて、寝心地に大きく影響するのが、
- 長さ・全長・適応身長
- 肩幅・肩周囲・肩回り
の2種類(メーカーにより表現が異なります)ですが、初心者がその数値から使用感を想像するのは困難です。
そこで今回、私の体感がベースになりますが、そのサイズと使用感について解説したいと思います。
付かず離れずが実用的なサイズ
熱には
- 暖かいところから冷たいところへ移動する
- 暖かい空気は上昇する(空気は暖かくなると膨張し軽くなる。気球が飛ぶ原理)
という特性があります。登山用の寝袋は、軽量化を伴いながらいかに効率よく人間の発する熱を保温し、蒸れを放出するか、を突き詰めた製品で、生地と中綿によって抱えられた動きにくい・対流しにくい空気層(通称:デッドエア)によって断熱する構造になっています。空気が対流してしまうと、次々と熱が外気に逃げてしまい、なかなか暖かくなりません。
保温のことだけを考えるなら、身体に寝袋の内側の生地がぴったり付くのが効率的です。身体と寝袋の空間が開けば開くほど、対流して熱を分散する空気層が増えるからです。この空気層は寝袋内部が温まるのを遅くするだけでなく、就寝時に寝返り等で動いた時に顔の部分から外へ逃げたり、外の冷たい空気が内部に入り込む原因にもなります。
しかし、身体と内側の生地が近づけば近づくほど拘束感・圧迫感が強くなり寝にくくなります。普段、皆さんはどのように寝ているでしょうか。左右に寝返りしたり、手足を広げたり曲げたりと様々な体勢で寝ていると思います。姿勢の寝やすさを考えると、自宅の布団のように身体よりずっと大きく包み込むものが理想です。
寝袋のサイズを選ぶ時、この相反する”保温力”と”寝やすさ”をどこで折り合いをつけるかが大切なポイントになってきます。
縦方向:長さ・全長・適応身長
全長は寝袋の縦方向の長さを表す数値です。ただ、この数値(全長208cmなど)では利用者の使用感があまりわからないため、親切なメーカーは適応身長(頭頂部と足裏部の中綿の嵩高・ロフトを潰さず快適に利用できる身長の上限値。身長180cm以下など)で表現してくれています。
寝袋の全長のみ記載されている場合は、おおよそですが、
- 全長(cm)-28cm ≒ 適応身長
となるようです。(※メーカーにより構造が異なりますので、確実な数値はメーカーや代理店に直接問い合わせてください。)
サイズは3種類
通常、日本で流通している登山用寝袋の多くは、
- ロングサイズ:身長195cm以下、大柄な方向け。
- レギュラーサイズ:身長180cm以下
- ショートサイズ:身長165cm以下、女性向け
の3サイズがあります。(メーカーにより各サイズの上限値は数センチ異なります)
寝袋の適応身長より使用者の身長が小さすぎると足裏の空間が広くなっていき、それだけ足元が温まりにくくなってしまいます。逆に適応身長上限値を超えた場合は、頭と足が押されるような窮屈感が出るだけでなく、中綿の膨らみを圧迫して断熱力を低下させてしまいます。
そのため、自分の身長に合ったサイズを選ぶことを推奨します。個人的にはピタピタよりも少し余裕があるサイズの方が好みです。
適応身長の上限値の場合は判断が難しい
例えば、身長が185cmの方なら、大抵のメーカーのレギュラーサイズでは明らかに縦方向も横方向もきつくなり「ロングサイズですね」となり、155cmの女性なら、レギュラーでは足元がガバガバに余ってしまって「ショートサイズですね」となります。
ところが、登山用の寝袋選びで難しいのは、適応身長の上限値付近の方です。例えば、身長が180cmの方が適応身長180cmの寝袋が適切かどうか、というと判断が難しいところがあります。基本的に身長の比例して肩幅も大きくなり、適応身長に近づくと縦方向だけでなく、横方向や寝袋内での寝る時の姿勢替え(膝を曲げるなど)の窮屈感が増してきます。
また、これは応用編ですが、足元が寒くて靴下を2枚履きするしたり、フットウォーマー(象足)を履いたときに更に窮屈になってしまいます。あまりに寒かった場合にナルゲンボトルにお湯を入れて湯たんぽとして足元に入れることもあるのですが、適応身長ピタピタだと、これが難しくなります。
私は身長が176.5cmですが、いままで様々なメーカーの登山用のレギュラーサイズの寝袋に入ってきて、縦方向でキツイと感じたことがありません。そして、実際に登山で寝袋を使ってきて、ある程度の余裕はあった方が何かと使いやすいと感じています。
私の体感ですが、自分の身長と適応身長の上限値が5cm以上離れているなら、ある程度の余裕と汎用性があります。しかし、上限値との差がわずかしか無いは、実際にお店で購入を検討している寝袋に入って、そのサイズ感で良いか、確認して納得して購入されることをおすすめします。(メーカーによってはサイズの違いで価格が異なります)
実際に寝ると身長より伸びる
身長は立った状態で測定しますが、人間は仰向けになって寝ると自然と足の爪先が下がります。
上のアニメーションは、実際にマットを敷いた上に私が寝た時の足先の動きです。最初は身長を測定する時のように力を入れて踵を直角にして、それからリラックスした時の様子です。下にメジャーを置いていますが約5cmほどつま先が動いています。
この動く幅は個人差があります。試しに妻に同じように寝てもらい測定したところ、私より足が小さいにもかかわらず約7cmも動きました。
今までに幾人も寝袋に入って寝る様子を見てきましたが、適応身長よりも数センチ低い身長の方が寝袋に入った時、明らかに足先がパッツンパッツンになって足裏の中綿の膨らみを潰している様子を見てきて、最初はなぜそうなるのかわからず疑問に感じていましたが、ある時この”寝ると足先が下がる”現象が原因であるとわかりました。(寝袋に入ると足の動きが見えないため、気づくのにある程度の期間かかりました)
この動きは力を抜くと自然と起こるものですが、ある程度押す力を持っているため、寝袋の足裏がふわっと柔らかくダウンが膨らんだのような反発力の弱い作りだと簡単に膨らみを潰してしまいます。足は元々冷えやすい場所にもかかわらず、足裏のダウンを潰してしまっては、なおさら足の熱が外に逃げてしまいます。
先程、”適応身長の上限値に近い身長の方は実際に製品に入って確認した方がよい”と書いたのは、この意味も含んでいます。
横方向:肩幅・肩周囲・肩回り
寝袋の肩幅
寝袋のサイズ選び縦方向と共に重要なのが、横方向です。
寝袋で使われる横方向の長さは主に
- 「肩」部分の長さ
- 「お尻」部分の長さ
- 「足」部分の長さ
の3つあり、寝心地に大きく影響するのが、肩部分の長さです。メーカーによって肩幅・肩周囲・肩回りと表記が異なります。
肩幅は寝袋のファスナーを閉じた状態で無理なく引っ張ったときの横幅の最大長になり、
- 肩幅 × 2 ≒ 肩周囲
になります。肩幅が80cmであれば、肩周囲は160cmになります。この数値は、肩部分にどれだけの余裕があるかを確認できる数値になります。
縦方向のサイズに関しては、皆さん自分自身の身長を知っているため理解しやすいのですが、横方向に関してはおそらく知らない方がほとんどと思われます。そのため、例えば3シーズン用の寝袋で肩周囲150cmや肩幅80cm(≒肩周囲160cm)と記載があったりしますが、この数値を見ても全く使用感が想像できません。
特に横方向できついと感じやすいのは、男性で普段の服のサイズがLやXLの方です。それ以外の方は、大抵のメーカーの寝袋であれば適度なゆとりが感じられると思います。
そこで、横方向について私の主観を交えて解説したいと思います。
実際は肩周囲(肩幅)より狭くなる
寝袋の外周と内周
カタログに記載されている肩幅・肩周囲は、寝袋の外周になります。ところが実際には内側に中綿があるため、寝袋の内周は外周より小さな値になります。
この外周と内周の差は中綿の量と構造により異なり、雪山用は中綿が多くてファスナー内側に断熱チューブが入るため差が大きく(約5~15cm程度)、3シーズン用や夏用はそれほどありません(約1~5cm程度)。
また、同じ横幅でも、中綿がダウンか化繊かでも体感する広さが異なります。ダウンに比べ化繊の中綿は反発力が強く、寝袋内で動いた時により狭く感じやすいです。ダウンは押せば簡単に潰れるため、開放感があります。
自分の肩周囲を測定する
アンダーウェアを着用して肩周りを測定
服飾向けの軟らかいメジャーを使って、肩周りを測定します。上の写真を見ると、本来の肩周りの測定位置より少し下に下げています。理由は、一人だと本来の肩周りの測定が難しい(メジャーがずれるため)こと、また実際寝て僅かに脇が開いてリラックスした本来の肩周りより少し大きい数値を測定したいためです。一人で測定する場合は洗面台の鏡を利用して、胸側と背中側のメジャーが水平になっているか確認しましょう。また、服の上にメジャーが優しくのる程度の締め具合で大丈夫です。
アンダーウェアの肩周りの数値を測定して、まだ余裕があれば標高の高い山や紅葉時期の登山で就寝時に着用するフリースやインサレーションを着て測定して見ると良いかもしれません。
今回測定に使用したウェアは、3シーズンの登山を想定したもので、フリースは薄手のもの、インサレーション(防寒着)は3シーズン登山に一般的に使われる程度の厚みのもので、実際に私が登山で使用してきているウェアです。因みにダウンジャケットは、メジャーが容易に食い込んでしまうため、食い込ませず、ずり落ちない程度に測定するのが難しかったです。
3つの測定の結果、
- ベースレイヤー:118cm
- ベースレイヤー+フリース:118.5cm
- ベースレイヤー+フリース+ダウンジャケット:129cm(差11cm)
となりました。薄手のフリースでは測定誤差程度の差しかありませんでしたが、ダウンジャケットを着ると肩周りが+11cm増えました。(因みに私はどちらかと言うと胸板が厚く、肩もがっしりした骨格です。)
また、妻に協力してもらって、測定した結果、
- ベースレイヤー:95cm
- ベースレイヤー+フリース:98cm
- ベースレイヤー+フリース+ダウンジャケット:108cm(差8cm)
となりました。(フリースもダウンジャケットも私のより少し厚めです)
インサレーションの厚みにより肩周囲の増え幅は異なりますが、インサレーションを着用したときの肩周囲は薄着の肩周り+10cm程度を見ておけばよいかな、と思います。
肩周囲(肩幅)の異なる寝袋に入り比べる
手持ちの寝袋の肩周囲を事前に測定して、ベースレイヤーのみ着用した時、ダウンジャケットを着用した時で実際に入り比べてみました。
- 製品A:肩周囲152cm(肩幅76cm)
- 製品B:肩周囲165cm(肩幅82.5cm)
製品Aの場合、ベースレイヤーのみ着用して寝ると「まあこんなものかな」という適度なゆとりが感じられる寝心地ですが、フリースとダウンジャケットを着て寝ると、ダウンジャケットの膨らみを圧迫しない程度のぴったりした感じになりました。腕を動かそうとすると寝袋の内側の生地が突っ張ります。肩周りに無駄な空間がほとんど無く、保温としては理想的かもしれませんが、身動きしにくいので、この状態で何時間も寝るのは避けたい、そんな感じです。(実際この寝袋は登山で私はあまり使わず、妻への貸出用となっている)
次に製品Bです。これは厳冬期雪山用の寝袋です。アンダーのみではかなり余裕あり、ほとんど圧迫感がありません。フリースとダウンジャケットを着ても、ある程度腕を動かせるゆとりが感じられます。もう少し狭くても良いかな、そんな感じがします。
製品AとBで肩周囲の差が13cmですが、寝心地が大きく異なりました。
実際に山へ行くと、寝袋の中でスマホで翌日の天気予報や行程を確認したりすることが多く、片腕を折り曲げれる程度のゆとりが欲しいところです。
以上、簡単にまとめると
- 寝袋の肩周囲152cm(肩幅76cm) - 肩周囲118cm(アンダーのみ) = 差34cm(ある程度の余裕あり)
- 寝袋の肩周囲152cm(肩幅76cm) - 肩周囲129cm(アンダー+フリース+ダウン) = 差23cm(狭い、長時間はしんどい)
- 寝袋の肩周囲165cm(肩幅82.5cm) - 肩周囲118cm(アンダーのみ) = 差47cm(かなり余裕あり)
- 寝袋の肩周囲165cm(肩幅82.5cm) - 肩周囲129cm(アンダー+フリース+ダウン) = 差36cm(ある程度の余裕あり)
となりました。
その後、寝袋の内側をテープを貼って内側の肩周囲を約156cmまで下げてダウンジャケット着て試しましたが、差が20cm後半だと、多少動きにくくを感じます。
あくまで私の個人的な感覚ですが、肩周囲の差がおおよそ30cm程度は欲しいな、と思いました。
この数値から逆算すると、購入を検討している寝袋の肩幅が80cmと書かれていて、3シーズン用として使う場合、
- [寝袋の肩周囲](例:肩幅80cm × 2) - [ゆとり数値]30cm - [インサレーション増加分]10cm ≧ 自分の肩周囲
であれば、ある程度余裕がありそうだ、と想像できます。
横方向まとめ
横方向(肩周囲、肩幅)のサイズは、登山者の平均的な体型を参考に決められていると思いますが、適応身長の上限値に近い身長の方は肩幅も大きく、体型によっては「これはきつい身動きができない・・・」となる可能性があります。男性で普段の服のサイズがLやXLの方は自分自信の肩周りを測定してみることをおすすめします。
女性は男性よりも遥かに肩周囲が小さい方が多く、女性向けのショートサイズも肩周囲がレギュラーと同じサイズが多いため、よほどふっくらした体型でないかぎり十分な程度余裕が感じられるのではないか、と思います。(服のサイズも男性と女性で2サイズほど差がある、おおよそ男性のSサイズが女性のLサイズに相当する)
また、軽量化に特化した製品は、カタログの数値よく見ると肩周囲が細くなっているものがあります。細いぶんだけ保温力を維持しながら生地と中綿の量が少なくできて軽量化に繋がるのですが、その分利用者の体型が限定される製品になりますので、大柄な男性は体格と相談して選ばれることをおすすめします。
サイズに関しては実物に入って購入するのが確実
登山向け寝袋は、より普及しているキャンプ用の寝袋とはサイズ感が大きく違います。人によって狭い広いは感じ方が異なるため、やはり実物に実際入って試すのがおすすめです。
ただ登山用の寝袋は、大型店舗の多い関東圏でも特定のメーカーのみ扱っている場合が多く、様々なメーカーの在庫を豊富の置いているお店はそれほど多くありません。理由は、登山用の寝袋はそれほど大きな市場ではないこと、1つのメーカー内でも十分にニーズに応えられる多くのモデルがあること、などがあげられます。そのため、実際に異なるメーカー間で実物を比較しながら選びにくいのが現状です。
保温力
保温力表示規格ISO23537(旧 EN13537)
登山用の寝袋を選ぶ上で、欠かせない指標がISO23537と呼ばれる保温力表示規格です。
この規格が寝袋メーカーに採用されるまでは、各社独自の保温力規格(例えるなら異なる目盛りの定規で測定しているようなもの)で表記されていため、異なるメーカーでの適正な保温力の比較ができませんでした。2014年頃から国内の主要メーカーも採用するようになり、消費者にわかりやすくなりました。
ISO23537(旧 EN13537)とは?
EU諸国間における工業製品の基準となるもので、EN13537は寝袋・シュラフの保温力表示を統一するためにEU諸国で決められた温度評価の規格です。その後、国際基準の規格としてISO EN 23537として置き換えられました。
今までは各メーカーが独自の方法で算出されていた使用温度を、同一基準で示すことができます。検査は認定された第三者機関が行う公平なもので、各メーカーの独自基準に基づく使用温度表示とは一線を画すものといえます。
温度範囲
3つの温度範囲で示されています。
元は英語表記ですが、日本ではそれぞれの温度範囲の名称がメーカーによって異なる(日本語訳・英語の日本語読み・英語)ため、すべて記載しておきます。
快適温度・コンフォート温度(Comfort temperature)
一般的な女性(25歳/60kg/160cm)が快適に寝ることができる温度域です。
初心者ユーザーも快適に寝ることができます。
下限温度・リミット温度(Limit temperature)
一般的な男性(25歳/70kg/173cm)がシュラフの中で丸くなり、快適に寝ることができる温度域です。
経験豊富なユーザーは、衣服や他の要素により最適な防寒性を得ることができます。
限界温度・エクストリーム温度(Extreme temperature)
一般的な成人女性が寝袋の中で丸まった状態で6時間耐えられる温度域です。健康上の問題が発生し、場合によっては死に至る恐れがあります。
極限の温度範囲であることをユーザーに警告するラベルです。
まとめ
参考になる温度は、快適温度・コンフォート温度と下限温度・リミット温度の2種類です(限界温度・エクストリーム温度は、鍛えられたエキスパート・登山家以外は無視して良いです)。
この規格の浸透により、異なるメーカーでの比較がしやすくなりましたが、
- ISO23537規格は日本人と体感温度の異なるヨーロッパ人基準(寒さに強い人種)基準
- この数値は車で例えるならメーカーの燃費表記のようにMAX値であり、実践で使った場合はこれより保温力が低下する可能性がある
- 寝袋だけでなくマットの断熱力も重要である
- 体感温度は個人差が大きい(痩せ型、女性は寒く感じやすい)
等も考慮して選ばれると良いです。
経験上少し暖かめの寝袋を選ぶことをおすすめします!(これ重要)
ISO23537について詳しく知りたい方は下記を御覧ください。
登山用の寝袋選びの基本
前置きが大分長くなってしまいましたが、ここからが本題です。
寝袋は長く使える装備
「登山用の寝袋は結構な値段するな?いったいどれくらいの期間使えるのだろう?」と疑問に思う方もいるかと思います。それなりに長い期間使えます。
例えば、登山用として最も普及しているダウンの寝袋は、使用頻度やメンテナンスの仕方にもよりますが丁寧に扱えば10年程度は使えます。ダウンは”きちんとメンテナンスをすれば100年以上も繰り返し使える素材”と言われています。ただ、ダウンを包み込んでいる生地のナイロンやポリエステルはおそらくそれほど持たず、ダウン自体も徐々に膨らむ力が低下していきます。”海外のサイトではダウンの寝袋は数十年使える”と書いていますが、ある登山者から「ダウンの寝袋持っていて、買って10年経っている。使えるんだけど、だいぶ膨らみが落ちてきて、買い換えようかと思ってます。」と聞いたことがあります。私自身の経験では2011年に購入したダウンの寝袋が現役で、20年以上前に買ったダウンジャケットもまだ使えるので押し入れに収納しています。
中綿が化繊綿の寝袋も、ダウンに比べて収納袋に入れる度に保温力の低下スピードが早いと言われていますが、使おうと思えば10年以上は使えます。
登山用品は、経年劣化・摩耗・紫外線による劣化で、5年程度で買い換え時期が訪れる装備も多々あります(例:登山靴、ウェア、テントなど)が、寝袋は移動中はザックの中で紫外線に当たらず使う場所もある程度綺麗なテントの中なので、傷みにくいです。
これから登山用に寝袋を購入する方は、1度購入したらある程度長いお付き合いになることを十分理解して選ばれることをおすすめします。
保温力:最初の1つ目は3シーズン用がおすすめ
「よし、これから登山でテント泊を初めよう」となって、必要になってくるのは、テント、寝袋、マットの3つです。「さて、寝袋はどれにしようかな?」と各寝袋メーカーのWEBページやカタログを広げると、1つのメーカーで数十個の異なる性能の寝袋がずらーっと並んでいて、「いったいどれを選べば良いんだ???」となるのが普通です。
山岳・登山用の寝袋は大きく分類すると
- 夏山用
- 3シーズン用
- 雪山用
の3種類あります。
「登山用に寝袋を探しているんですけど、どれがおすすめですか?」と聞かれたら、自信を持っておすすめしたいのが3シーズン用の寝袋です。
山における3シーズンとは?
アウトドア業界では頻繁に使われる用語として、3シーズン(春、夏、秋)、4シーズン(春、夏、秋、冬)があるのですが、山の3シーズンと言った場合は無積雪期(雪・氷が無い時期)の意味合いが強くなります。例えば、下界が春で桜咲く時期でも、標高2000m級の山では積雪や降雪があり、気温も氷点下で、登山の難易度や装備品も大きく異なります。
この無積雪期は、山の標高と緯度に比例し、下界の3シーズンよりずっと短い期間になります。
出典:イスカ
上記の主要山岳の月別最低気温の平均値(℃)を見ると、主要の山々の最低気温の平均値が0℃以上の期間は標高や緯度に比例して短くなるのが読み取れます。例えば、日本各地から登山者が集まる奥穂高岳を含む北アルプスでは、5月のGW時期は大量の残雪があり最低気温も氷点下です。このグラフだけ見ると、日本アルプスや八ヶ岳など人気の山域は、最低気温だけを見ると6月ぐらいからと思われるかもしれませんが実際はまだ残雪が所々残ってること、6月は梅雨が始まる時期でテント泊の登山に向かない時期などから、この山域の3シーズンといえる実質的な期間は梅雨明けの7月中旬から10月中旬くらいまでの約3ヶ月で、夏山といえるのは7月と8月です。
このように、おおく多くの登山者に人気の標高2000m級の山域の3シーズンは、下界の3シーズンよりもずっと短くなりますが、この期間に対応する保温力帯の寝袋が3シーズン用寝袋と言われるもので、下限温度・リミット温度がおおよそ0℃前後のものが該当します。
最初の購入に3シーズン用の寝袋おすすめする理由
今までに数え切れないくらい寝袋選びの相談にのってきましたが、これから登山用に寝袋を購入される方はまだ御自身の登山スタイルが明確になっていない方がほとんどです。日本アルプスなど標高が高く人気の山域での登山を考えると、夏山の寝袋を購入してしまうと、使える期間が限られてしまいます。後になって、「紅葉の時期もテント泊しよう」となったとき、また寝袋を買い直すことになりかねません。
夏山用は「(いろいろ経験して)私は夏山しか登らない」となった方や「既に3シーズン用の寝袋を持っていて、軽量化したい」という方が購入されることが多いです。
3シーズン用も細かく分類すると2種類ある
3シーズン用の寝袋を細かく分類すると
- 3.0シーズン用(下限温度・リミット温度が0℃程度)
- 3.5シーズン用(下限温度・リミット温度が-5℃程度)
があります。3.5シーズン用は残雪期や晩秋・初冬まで対応したモデルです。
山の紅葉時期は度々、最低気温が氷点下になります。
2014/09/18 北アルプスの白馬大池(標高2,379m)でテント泊。朝起きるとレインフライ内側の結露が凍結。
そのため、3.0シーズン用だと最も気温が下がる早朝(日の出前)に寒さで起こされる可能性があります。朝起きるとテントに付着した結露が凍っていたりします。経験上、アルプス・八ヶ岳の標高2000m程度のテント場では、9月中旬以降は最低気温が氷点下になる可能性が十分にあります。
下界ではまだ残暑が続く時期でも、山の上では別の世界が広がっています。
テント内は外気温より多少暖かく、このような時期はダウンジャケットなどの防寒着も着て寝ますが、寒さに敏感な女性は外気温が寝袋の下限温度・リミット温度以下になると「寒くて夜中に何度も起きた」、「夜中に寒くて目が覚めて、なんとか寝ようとしたけどなかなか眠れなかった」となることもありました。
夏山も良いですが、紅葉時期の方が涼しく、虫も少なく、重い荷物を背負うテント泊登山が心地よい時期です。私は紅葉時期は3.5シーズン用の寝袋を持っていきます。今までに100泊以上のテント泊を経験し、日によって気温が±5℃程度は変わることがわかりました。軽量化も大事だが寒さで眠りが浅くなり登山の疲労を回復できなかったり頭がぼーっとして元気がでないと、せっかくの山旅が楽しめなくなることがわかったので、あえて余裕のある寝袋を選択するようになりました。
夏山に3.5シーズン用を持っていくと暑いんじゃないか?と思われる方もいると思いますが、確かに首元までジッパー締めると暑いですがジッパーを全て開いたり、開いた状態で毛布のように上からかければ対応できます。(だたし夏に標高の低い山やキャンプ場で使うのは厳しいです)
寒がりの自覚がある方や紅葉時期もテント泊を積極的に楽しんで行きたい方は、3.0シーズンより+5℃程度保温力の高い3.5シーズン用の寝袋を選ぶことをおすすめします。
2012/10/05 紅葉の北アルプスの涸沢カール(標高約2,300m)。絶景ゆえ、山小屋もテント場も多くの登山者で賑わう
厳選3シーズン用の寝袋一覧
山岳・登山向けのマミー型寝袋は、中綿がダウンか化繊綿かで大きく分けることができます。ダウンの中でも最軽量・コンパクトなハイエンドモデルと、もう少し安価な素材を利用したお手頃価格モデルがあります。化繊綿は、全体的にダウンよりも重量が重くなる傾向がありますが、企業努力によりダウン並の重量の寝袋もわずかながらあります。
- 3シーズン用のダウン寝袋一覧
- 最軽量・コンパクトな3シーズン用のダウン寝袋一覧
- 軽量・コンパクトな3シーズン用の化繊綿の寝袋一覧
基本的に国内メーカーを中心に紹介しています。同程度の性能の海外メーカーの寝袋は多数ありますが、国内メーカー製よりも1.5倍程度価格が上がります。国内メーカー製は、日本人の体型に合わせて設計されていること、また万が一の修理対応を考えると、初心者におすすめです。
価格は、メーカー希望価格を掲載していますが、通販サイトでの実売価格はそれよりも安価のことが多い(イベントセール、ポイント還元アップ等で大きく値動きする場合もある)ため、都度確認して、どれが良いか検討されることをおすすめします。
お手頃価格3シーズン用のダウン寝袋一覧[価格2~2.5万]
タケモ スリーピングバッグ 3 [2℃,740g]
タケモ スリーピングバッグ 3
- 価格 : ¥22,000 +税
- サイズ : 内周囲 肩回り 158cm 全長 205cm 足元回り 104cm
- 重量 : 740g
- 素材:表地 裏地 ポリエステル100% 20Dのポリエステルリップストップ
- 中綿 : ホワイトダックダウン ダウン90% フェザー10% 300g 750フィルパワー
- 構造 : ボックス構造 シングルドラフトチューブ&ネックチューブ
- 収納サイズ : φ15cmX28cm
- 参考使用温度 : 最低使用温度 2℃
- 付属 : ストリージバッグSサイズ φ25cmX60cm
takemoは長年、某国内登山用寝袋メーカーにて30年勤務されていた武本さんが、「本物と呼べる良いものを安く!」のポリシーで2015年に設立したメーカーで、スリーピングバッグ 3は3シーズン向けの保温力の寝袋になります。
生地には撥水加工された、強くて軽い20Dのポリエステルリップストップを使用しています。保温材には750FPと高品質の、ホワイトダックダウンを300g封入。ダウンのかさ高性を最も引き出せるボックス構造を採用することにより、高い保温力を発揮します。ファスナーには温度調節の容易なYKK製170cmのコイルファスナーを使用しています。また、長期保管に最適なストリージバッグSサイズを標準装備しています。
実はこの寝袋サイトを運営しているご縁で、創業して間もない頃に雪山用のスリーピングバッグ9を提供していただき、約1年間使用しました。寝袋を見ただけで、どこのメーカーに勤務されていたかはすぐわかりましたが、そのエッセンスが活かされた寝袋になっていました。細部を見ると、簡素化されています(例えばコードロック、ゴム紐など)が、それが実使用に問題があるわけではありません。ホームページに「Takemoでは登山用寝袋として最低限ではなく、必要十分以上の素材と品質、構造にこだわりながら、インターネット販売に限定することで徹底的にコストを削減し低価格を実現しました。」と書かれていますが、その言葉通りに製品化された寝袋だと感じました。寝袋を購入する十分な予算があり最軽量・コンパクトのもの選びたい方はハイエンドモデルが良いですが、できれば予算を抑えたいという方にはtakemoの寝袋は十分選択肢に入ると思います。
ネット販売のみのため実物を確認することができませんが、縫製もしっかりしていて、むしろこの価格で完成度が高く感じます。2016年頃から主にamazonで販売していますが、どの寝袋も購入者レビューが非常に高評価です。
- コスパ最高(2022年8月8日):満足です。コストパフォーマンスは最高だと思います。スペック的にはモンベルのダウンハガー650 #3と同等程度です。今回、7月の尾瀬の見晴らしキャンプ場で使用しましたが、寒さは問題ありません。また、8歳の子供に背負わせて移動しましたが、軽いためちゃんと背負えました。付属品にはちゃんと保存用の袋もついています。次回買い換えるときもタケモの寝袋にします。
難点を上げるとすれば、生産数がそれほど多くないようで、時期になると早めに売り切れになってしまうこと、一旦在庫切れになると、再入荷まで数ヶ月かかることです。
※メーカー希望価格より、amazonでの販売価格がさらに安くなっいてます。
エアドライト 290[2℃,560g]
イスカ エアドライト 290
- 価格 : 33,990円(税込)
- 羽毛量 : 290g(90/10・750フィルパワー)
- サイズ : 肩幅78×全長208cm
- 収納サイズ : 直径14×24cm(収納スタッフバッグ付)
- 重量 : 570g
- カラー : ブルーストーン
- 対応温度 : 2℃
- 構造 : 上部ボックス構造 、下部シングル構造、立体フード、YKKコイルジッパー
- 収納ケース : コーデュラ製
夏山3000mクラスや春秋の中級山岳におすすめのモデルです。夏の涸沢や槍ヶ岳、剱岳などでのテント泊には最適の保温性を持っています。保温性と軽量性の両立のために、シュラフ上部はボックス構造、下部はシングル構造で仕上げています。ダウンの偏りを防ぐセパレートボックスを装備しています。
エアドライト 290は、ハイエンドモデルのエアプラス 280の中綿を800フィルパワー ホワイトグースダウンから750フィルパワーのダウン(おそらくダックダウン)に変えただけのモデルです。
重量が10gしか変わりませんが、価格が約5千円程度異なります。
メーカーの方から、「グースダウンの方が羽自体が大きく、撥水力も優れるがどうしても価格が高くなってしまう」と伺っています。ダウンの違いでこれほど価格が変わるのは驚きですが、普通に登山を楽しむなら、この水準でも十分のような感じがします。
サイズはレギュラーサイズ、ショートサイズの2種類あります。
- コンパクト(2022年8月8日):登山と自転車キャンプのために購入しました。かなりコンパクトにまとまり、荷物に余裕を持たせることができるため、気に入りました。ただ、コンパクトな分収納袋がかなりタイトな設計になっているようで、結構力を入れて詰めないと中々仕舞えないので注意です。保温性能は、個人的に快適な温度が8℃くらいまでで、それ以降はシュラフカバーを併用しないと寒いと思います。また、撥水性能が優秀で、自転車に積んでいるときに30分ほどにわか雨に降られたときでも、少し払うだけで全部水が飛んでいきました。そのため、シングルウォールテントで使うときでも、あまり神経質にならなくても良さそうです。(もちろん縫い目からは染みてしまいますが)
因みに、グースダウンを使用した上位モデルのエアプラスの実売価格は下記をご参照ください。
モンベル ダウンハガー650 #3 [-2℃,720g]
モンベル ダウンハガー650 #3
- 【価格】¥26,400+税
- 【中綿】650フィルパワー ダウン
- 【素材】表地:30デニール・スーパーマルチ・ポリエステル・タフタ[撥水加工],裏地:30デニール・スーパーマルチ・ポリエステル・タフタ
- 【重量】695g(720g) ※( )内はスタッフバッグを含む総重量です。
- 【カラー】バルサム(BASM)
- 【サイズ】R/ZIP(右ジッパー)、L/ZIP(左ジッパー)
- 【収納サイズ】∅15×30cm(4.7L)
- 【コンフォート温度】3℃
- 【リミット温度】-2℃
- 【エクストリーム温度】-18℃
- 【適応身長】183cmまで
- 【機能】R(右)ジッパーモデル(ジッパー長 170cm) ※ジッパースライダーには生地の噛み込みを軽減するパーツを取り付けています/ジョイント可能モデルとジョイントできます/スーパースパイラルストレッチ™ システム
- 【付属品】ストリージバッグ
上位モデルのダウンハガー800 #3と同じくスーパースパイラルストレッチシステムのため、伸縮率135%になっています。
上位モデルと比較すると、生地の繊維が30デニールと太く(重量増)、ダウンも650フィルパワー(おそらくダックダウン)のため、重量が720gになっています。
メーカーに問い合わせたところ、主に2点の変更があるとのことでした。
- 寝袋のフード部分の形状変更 (保温力アップ)
- ジッパーのフラップ形状を変更 (保温力アップ)
写真で見ると、確かにフード部分のしぼみが変化しているのがわかります。
また、実物を確認したところ、2020モデルの中綿ダウンモデル(ダウンハガー900,800,650等)から
- ジッパーに『生地の噛み込みを軽減するパーツ(YKK製)』
が取り付けられています。(カタログにも記載されています。化繊モデル(バロウバッグ)は付いてません)
モンベルの寝袋は収縮する構造上、どうしてもジッパーが生地に噛み込みしやすかったですが、今回の変更により、より開閉しやすくなるだけでなく、生地裂けリスクも軽減されるでしょう。
また、2019年モデルまでは生地に40デニールナイロンが使われていましたが、2020年モデルより30デニールポリエステルになり、旧モデル858g⇒新モデル720gと138gも軽量化されました。
旧モデルでは、重量と収納サイズが多少大きくなるため、キャンプ用中心かな、というスペックでしたが、新モデルでは十分登山用とでも使えるスペックになってきています。
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最軽量3シーズン用のダウン寝袋一覧[価格3万~]
モンベル シームレス ダウンハガー800 #3 [-2℃,555g]
モンベル ダウンハガー800 #3
- 【素材】生地:10デニール・バリスティック エアライト®ナイロン・タフタ[はっ水加工]中綿:800FP EXダウン
- 【重量】531g(555g) ※【重量】欄の( )内はスタッフバッグを含む総重量です。
- 【カラー】ブルーグリーン(BASM)、レッド(SURD)
- 【サイズ】R/ZIP(右ジッパー)、L/ZIP(左ジッパー)
- 【収納サイズ】∅13×26cm(3.0L)
- 【適応身長】183cmまで対応
- 【快適温度】 4℃
- 【使用可能温度】 -1℃
- 【機能】RジッパーモデルとLジッパーモデルから選べます。(ジッパー長170cm)/ジョイント可能モデルとジョイントできます/ジッパースライダーには生地の噛み込みを軽減するパーツを取り付けています/スーパースパイラルストレッチシステム(内側に搭載:伸縮率最大135%)
- 【付属品】長期保管用の専用ストリージバッグ
モンベル シームレス ダウンハガー800 #3はモンベルのハイエンドモデルの3シーズン用寝袋です。軽量・コンパクトを実現しながら快適な寝心地を実現している、モンベルの主力のスリーピングバッグになります。
このモデルは、2021年に旧モデルからリニューアルされたモデルで、旧モデルより軽量化されています。
- 旧モデル:メーカー型:#1121291(2015~2019年)使用可能温度-2℃、重量:600g(収納袋込み)
- 旧モデル:メーカー型:#1121360(2020年)使用可能温度-1℃、重量:595g(収納袋込み)
- 新モデル:メーカー型:#1121401(2021年~)使用可能温度-1℃、重量:555g(収納袋込み)
最高級の800フィルパワーのダウンを使用し、リミット温度-1℃、総重量555g(収納袋込み)と軽量・コンパクトです。生地は撥水加工されています。
ジッパーに『生地の噛み込みを軽減するパーツ(YKK製)』が採用されています。
モンベルの寝袋は収縮する構造上、どうしてもジッパーが生地に噛み込みしやすかったですが、より開閉しやすくなるだけでなく、生地裂けリスクも軽減されるでしょう。
このモンベル ダウンハガーモデルの大きな特徴は、スーパースパイラルストレッチ システムという高い伸縮性を備えていることです。
この仕組はモンベルの特許で、生地自体のの伸縮性+ゴムの伸縮性により、高い伸縮性とフィット感を実現しています。伸縮性があるため、カタログに肩幅など横方向のサイズの記載がありませんが、ダウンハガー800 #3の肩部分を伸縮させると、おおよそ肩幅が80cm程度までのびましたので、就寝時に身体を動かしたときに十分なゆとりを感じることができると思います。
色は、2色展開です。
他にも、ロングサイズ、女性向けのモデルもあります。
イスカ エア プラス280[2℃,550g]
イスカ エア プラス280
- 価格40,700円(税込)
- 羽毛量 : 280g(90/10 800フィルパワー ハンドピック ホワイトグースダウン)
- サイズ : 肩幅78×全長210cm
- 収納サイズ : 直径14×24cm(収納スタッフバッグ付)
- 重量 : 550g カラー : ブルーストーン
- 対応温度 : 2℃(推定のコンフォート温度3.6℃、リミット温度-1.6℃)
- 適応身長 : 170~185cm(レギュラーサイズ)
- 構造 : 上部ボックス構造 、下部シングル構造、立体フード、YKKコイルジッパー、足元ゆったり設計
- 収納ケース : コーデュラ製
夏の3000mクラスの縦走や、春秋の中級山岳に最適です。保温性と軽量化の両立のために、ボックス構造とシングル構造を併用したハイブリッドモデルです。胸から腰にかけてのセパレートボックスは、ダウンの偏りを防ぎ保温性を高めています。
マミー型に寝なれない初心者向けとなると、どうしてもストレッチして開放感のあるモンベル製が大きなアドバンテージがあるのは否定できないのですが、イスカの寝袋も細部にこだわりが感じられる創業1972年の歴史ある日本の寝袋メーカーです。
マミー型の寝袋を革新的なアイデアでストレッチさせているモンベルに対し、マミー型の形をそのまま身体の曲線に添うような立体的な形状になっています。
登山の玄人の方々から支持されているメーカーで、エア 280xは登山向けの3シーズン用寝袋のハイエンド製品になります。
保温力はメーカー独自指標の保温力2℃です。カタログ表記はありませんが、ISO23537の推定のコンフォート温度3.6℃、リミット温度-1.6℃と思われます。(前モデルと同じ保温力で、全モデルではISOの測定結果も掲載されていました)
ジャムストッパーという、ジッパーの生地の噛み込みを防止する工夫がされていて、定評があります。(モンベルは結構生地を噛み込みます。)
ストレッチはありませんが、重量がモンベル シームレスダウンハガー800 #3 [0℃,555g]とほぼ同じ重量です。
以前はあったショートモデルが無くなり、エアドライモデルにはショートがあり、メーカーとしての主力がエアプラスより価格が手頃なエアドライへと移っている感じがします。
軽量・コンパクトな3シーズン用の化繊綿の寝袋一覧
一般的に化繊綿の寝袋は、高品質ダウンと同じ保温力にするために、1.5倍程度の中綿重量が必要となり、収納サイズも2倍以上大きくなるため、長時間持ち運ぶ登山用として、ほとんど選択肢に入りませんでした。
近年、特殊な素材が開発され、重量も収納サイズもそれまでの化繊綿よりもずっと小さく、ダウン寝袋に近づいたものもいくつかあります。とはいうものの、寝袋としての総合点は、ダウンにはとても及びません。ダウン特有の入って間もなくふわっと暖かくなり優しく包まれる感じは、化繊綿からはあまり感じられません。
しかし、化繊綿には”濡れても保温力が落ちにくい”という特徴があるため、連泊が多い方、沢登りなど水濡れのリスクのあるアクティビティをする方からは根強い支持があります。
ファイントラック ポリゴンネスト イエロー[0℃,695g]
ファイントラック ポリゴンネスト イエロー
- 価格 ¥38,280 (税込)
- 重量 695g
- 保温力 T Comfort:7℃、T Limit:3℃
- 素材 表:ナイロン100%、裏:ナイロン100%、中間層:ポリエステル100%(ファインポリゴン®)
- 原産国 日本
- 注釈 身長185cmまで 収納サイズ:Φ17cm×30cm
<春~秋に対応するオールラウンドモデル>
世界初のシート状立体保温素材ファインポリゴン®を使用した、3シーズン用モデルのスリーピングバッグです。濡れによる保温力の低下を抑えながら、驚きの速乾性を実現。テント内の結露や身体からの発汗による濡れ、また山行中やテント内で起こる不意の水濡れに優れた対応力を発揮し、連泊の縦走などで想定される保温力損失のリスクを軽減できます。縫製箇所を最小限にした構造は、防寒性能が低下するコールドスポットが発生しにくく、効率的な保温効果を発揮。また、一般的な化繊綿のスリーピングバッグと比較して軽量コンパクト性も実現しています。
■濡れても保温力の低下が少ない
■速く乾く
■コールドスポットが少ない効率的な保温効果
■足元までのファスナー付き
■足元に吊り下げ干し用のループ付き
とても斬新な保温シートにより、高品質ダウンの寝袋に近い軽量性・コンパクト性を実現しています。
ただ、寝心地が独特で、気になる方には気になる独特のカサカサ音が発生します。
今まで利用者のレビューを何度も見てきていますが、好みが分かれる寝袋のようです。過去にダウン寝袋の濡れによる保温力低下に悩まされていた方には高評価ですが、そこまで悩みが無かった方にはイマイチ、と反応が分かれるようです。
上の動画でも”10日間、台湾の沢登りでダウンシュラフの中身がごろごろと塊になり・・・”とあるように、どんな天候でも山で連泊するハードユーザー向けの寝袋と言えるかもしれません。
レギュラーサイズ(身長185cmまで)とショートサイズ(身長165cmまで)があります。
最後に
このページを最後まで読み切った方は、どれほどいるでしょうか。沢山書かれすぎて、読み疲れてしまった方も多数いるかと思います。ただ、内容を分割したままだと、山岳・登山用を選ぶポイントが断片的になっていまうため、あえて1ページにまとめました。
山仲間の会話で、「登山用に寝袋を買おうかと思ってるんだけど、どれがいいかな?」となった時、「とりあえずこのページを読んでみたら?」と紹介されるような内容を目指しました。
テントの中で寝るのも良いですが、天気の良い日に外にマットと寝袋を広げて、いつも見過ごしている上の景色を見上げながら過ごすのがとても好きです。
関連ページ
著者PROFILE
2009年末から寝袋と関連装備に特化したこのサイトを開設。いつの間にか運営10年を超える老舗サイトに。ファミリーキャンプから無積雪期登山、厳冬期登山、バイクのキャンプツーリングに自転車旅行、車中泊など、アウトドアを幅広く経験。寝袋の宿泊数は100泊以上~500泊未満。狭い業界ですが、まだまだ知らないこと沢山あり、日々勉強中です☆
谷川岳の雪洞で宿泊
今まで様々な状況下で寝てきましたが、100泊以上経験してわかったのが、『保温力に余裕のある寝袋を用意すること』です。
雪山テントは換気にも注意(テントが埋まると酸欠に)
雨風や断熱材で守られた家と違い、アウトドアフィールドでの宿泊は天候や外気温の変化を大きく受けます。事前の天気予報より、当日の気温が-5℃程度低かった、などは日常茶飯事です。また、多くのキャンプ場は、最寄りの市街地よりも標高が高い事が多く、天気予報で知ることのできる最寄りの市街地の最低気温よりも気温が低いことが多いです。
自然の中で睡眠をとる体験は素晴らしいですが、寝袋の保温力が足りないと真夜中に早朝に目が冷めます。これは外気温は日の出前の早朝4~5時あたりが最も気温が下がり、また体温も下がっているためです。一度このタイミングで目が冷めてしまうと、身体が芯から冷え切っているため、ここからなかなか眠ることができません。そして、寝不足の状態になります。
楽しいアウトドア体験するはずだったのが、思わぬ寝不足でボーーっとしてしまうのは、もったいないです(しかも連泊でこれが続くとかなりキツイです)。少し汗ばむくらいの保温力の寝袋を選んで、ぜひ素敵なアウトドア体験を満喫してください☆
寝袋と(キャンプ用の)マットは2つで1つです。
キャンプ用のマットの役割は主に『断熱』と『寝心地を快適にする』の2つです。
『断熱』について・・・アウトドア用の寝袋の中綿として、化繊やダウンが使われていますため、小さく圧縮して収納し持ち運ぶ事ができます。寝袋を収納袋から出して広げると、徐々に中綿が膨らみますが、人間が寝袋に入ったときに身体と地面に挟まれた中綿はぺちゃんこに潰れるため、断熱力がほとんどなくなります。大概の地面は冷たく、身体の重みで密着した部分から体温が逃げ(ヒートロス、熱損失)て、底冷えします。この現象は、体温と地熱の温度差が大きい春・秋・冬ほど熱損失量も増えます。
これを防ぐため、キャンプ用のマットを使います。キャンプ用のマット体重がかかっても断熱効果が得られるよう設計されています。
『寝心地を快適にする』について・・・最近、畳の上で寝たことはありますか?痛くて寝れなかったという方もいるのではないでしょうか。昨今の快適用品の普及により、強い刺激に敏感になっています。よほどふかふかの芝生以外、寝袋のみで寝ると地面の凸凹や石があたって痛くてまともに寝れません。その衝撃を吸収する役割としてキャンプ用マットが使われます。キャンプ用マットは大きくクローズドセルマット(銀マットなど)とエア注入式の2種類あり、寝心地はエア注入式の方が良いです。
テントの中で寝袋の下に敷くマットは、様々な用途に合わせて、多数の商品があります。皆さんの用途にあった、快適に寝れるマットが見つかりますように☆
近年、消費税10%、燃料価格高騰、ダウン価格の上昇により、登山用の寝袋が値上がりしています。これから始める初心者には費用的にハードルが高くなっています。その状況を踏まえ、ハイエンドモデルに比べて使用する材料のグレード(ダウンで言えば)を少し落として(例:ダウンを800FPグースダウン⇒720FPダックダウン)、購入しやすい価格帯を実現している製品もあります。価格も手頃で性能も必要十分との口コミも見られ、優先的に購入しやすいモデルを以下に紹介したいと思います。