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熊スプレーの練習用(イナート缶)とは?使い方・必要性・選び方を徹底解説

熊スプレーは、買っただけで安心とはいえません。ただし、練習に必ずしもイナート缶が必要というわけではありません。本番の熊スプレーとの使い分け方を解説します。

環境省の速報値によると、2025年度(令和7年度)の熊の出没件数は50,801件、人身被害は216件・被害者238人・死亡13人でした(2026年7月7日・10日更新)。

出没件数は北海道を含まず、都道府県ごとに集計方法が異なる点にご注意ください。被害者数・死亡者数はいずれも過去最多です。

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登山・キャンプ・渓流釣り・山菜採りで自然に入る方はもちろん、出没の多い地域で暮らす方にとっても、スプレーを「使える状態」にしておく大切さは増すばかりです。

この記事では、イナート缶の基本や使い方、選び方から、国内外のおすすめ製品まで、山に入る前に知っておきたい情報をわかりやすくまとめました。

この記事でわかること

  • イナート缶(練習用熊スプレー)とは何か、本番缶とのちがい
  • 本番の熊スプレーとイナート缶、どちらで練習すべきか
  • 国内外のおすすめイナート缶かんたん比較
  • 練習が必要な理由と、練習不足のリスク
  • イナート缶を使った正しい訓練の手順
  • 訓練の頻度・ホルスター・保管・廃棄の実践知識
  • 本番缶を携行・使用するときの基礎知識
熊撃退スプレーの使用テストの管理人Masaki T
所有する熊撃退スプレー フロンテァーズマンとUDAP

名前:Masaki T [ profile ]
経歴:北海道出身、登山歴15年以上。関東の大型の登山用品店で約4年間の勤務を経験。熊撃退スプレーを家族分の2本所有(フロンテァーズマン,UDAP)し、出没リスクの高い地域では携行。自分自身も勉強しつつ適正な情報発信を心がけています

日本の熊研究機関日本クマネットワーク(JBN)/日本熊森協会/知床財団/信州ツキノワグマ研究会

目次

イナート缶ってなに?練習専用の熊スプレーをやさしく解説

熊スプレーの練習用イナート缶
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イナート缶(Inert Can)は、熊を撃退するためのカプサイシンを含まない、練習専用のスプレー缶です。

ただし中身は水やアルコール、LPガスなど製品によってさまざま。目や顔に向けない、火の気のない場所で使うといった注意は必要です。

「刺激ゼロ」ではなく「熊撃退成分ゼロ」と考えると分かりやすいでしょう。アルコール入りの製品は、肌が敏感な方は特に注意してください。

実は、練習の多くは本番の熊スプレーだけでもできます。「取り出す→安全装置を外す→構える」までは中身を消費しないため、本番缶をそのまま使って繰り返し練習して問題ありません。

注意したいのは、実際に噴射するところまでです。一度でも本番缶を噴射すると内圧が下がり、いざという時に十分な性能を出せない恐れがあります。山と溪谷オンラインの取材でも、熊スプレーは試し打ちができず一発勝負になりがちな実情が伝えられています。

そこで役立つのがイナート缶です。ただし多くは再充填できない使い切りタイプで、残量の範囲で短い噴射を複数回試せる仕組みです。

本番の熊スプレーとイナート缶、どちらで練習すべき?

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取り出し・安全装置解除・構えまでの動作は、本番缶でも十分に練習できます。年に数回の登山やキャンプなら、この範囲で十分でしょう。

一方、猟師や林業関係者、山岳ガイドなど、仕事で熊の生息地に日常的に立ち入る方には、噴射までイナート缶で練習することをおすすめします。

自分がどちらのタイプに近いかで、このあとの比較表やおすすめ製品をどこまで参考にするかも変わってきます。まずはイナート缶と本番缶のちがいを、もう少し詳しく見ていきましょう。

本番缶とのちがいをシンプルに整理

イナート缶と本番缶のちがいは、中身の成分だけとは限りません。噴射距離や噴射時間、霧の形、重さまで、本番缶にどれだけ近いかは製品ごとに差があります。

たとえばUDAP社のイナート缶は、公式情報によると本番缶と同じ噴射圧力を保ちながらカプサイシンを含まない仕様です。どこまで本番同様に再現されているかは、このあとの比較表や各製品ページで確認しておくと安心です。

購入時は、自分が持っている(または購入予定の)本番缶と同じメーカー・同じシリーズのイナート缶を選ぶのがおすすめです。形状や安全ピンの構造が違うと、せっかく練習した動きが本番でうまく活きないことがあります。

安全装置の外し方やグリップのバランス、ノズルの向きは製品ごとに少し違うので、この点はしっかり確認しておきましょう。

「練習用スプレー」「トレーニング缶」など呼び方はいろいろ、仕様は製品ごとに異なる

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日本語では「練習用スプレー」「トレーニング缶」「イナート缶」など、いろいろな呼び方が使われています。

英語圏では”Inert Training Can”や”Practice Bear Spray”という表記が一般的です。

どれも指しているのは、カプサイシンを含まない練習専用の缶のこと。探すときはこれらの言葉を組み合わせて検索すると見つけやすいでしょう。ただし「練習用」と書かれていても、中身や噴射特性は製品によって異なるので、購入前に必ず商品説明を確認してください。

まずは比較!代表的なイナート缶5製品

国内で手に入りやすい主要イナート缶を一覧にまとめました。詳しい選び方や各製品の解説は、この記事の後半でご紹介します。

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製品内容量等公称噴射距離噴射時間(合計)主な注意点
UDAP #12-I225g約9.1m公式ページに明記なし本番缶(7.9oz/225gモデル)と同等の噴射圧
Frontiersman MAX Practice7.9ozクラス約12m・対応本番モデルと同等商品ページで要確認7.9oz本番モデル対応
熊一目散 練習用280ml本番用と同等本番用と同等霧の形状は本番用と異なる・アルコール主成分
ベアアタック トレーニング234ml・280g約12m約6〜7秒再充填不可・50℃以上を避ける
カールホーネック OC5100225ml・253g約10m約4秒2026年5月発売・水+微量アルコール

数値はいずれも各社公式サイトで確認できた情報ですが、噴射距離・時間は測定条件によって変わることがあります。購入前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

なぜ練習が必要?——「持っているだけ」では安全は守れない

熊は短時間で一気に距離を詰めてくるため、遭遇してから操作方法を確認する余裕はありません。緊張した場面でも迷わず操作するには、事前に一連の動作を繰り返しておくことが大切です。

米国インタージェンシー・グリズリーベア委員会(IGBC)は、熊スプレーをすぐ取り出せる場所に携行し、使い方を理解しておくよう案内しています。実際の安全教育でも、刺激成分を含まない練習缶が操作訓練に使われています。

世界の熊研究の現場でも、練習の大切さが広く共有されているようです。

「ぶっつけ本番」が危ない理由

熊スプレーの操作は、文章にすると意外とシンプルです。安全クリップを外し、ホルスターから抜き、構えて噴射する——それだけです。ただ実際は、緊張と焦りの中でおこなう動作です。

海外製品にはトリガー式のノズルも多く、日本人には馴染みの薄い操作感の製品も少なくありません。普段触れたことのない構造を、とっさの状況で正確に操作するのは、思っている以上に難しいものです。

安全ピンを外したまま誤って噴射したり、ホルスターからうまく取り出せなかったり。こうしたトラブルは、練習不足だと起こりやすくなります。

UDAP社も公式資料の中で、パニックの一番の原因は事前にどう考え、どう反応するかを訓練していないことだと説明しています。

練習は気休めではなく、本番の成功率を左右する実践的な準備なのです。

熊との遭遇リスクは、もう「山奥だけ」の話じゃない

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近年は「アーバンベア」という言葉が定着したように、熊の出没エリアは山奥だけでなく、里山や住宅地、市街地にも広がっています。

銀行の駐車場やスーパー、大学のキャンパスなど、身近な場所での目撃も相次ぎました。

2025年9月には「緊急銃猟」という新しい制度が始まりました。人の生活圏への侵入など法定の条件を満たした場合に、市町村が技能要件を満たす捕獲者へ委託して発砲する仕組みです。

環境省の資料によると、緊急銃猟は2025年度に60件、2026年度も6月時点で17件実施され、このうちクマを対象とした事例は合計73件です。東北地方が全体の約6割を占めています。

被害の深刻な秋田県には陸上自衛隊も派遣されましたが、駆除そのものではなく箱わなの運搬や情報収集などの後方支援にあたりました。

登山者はもちろん、渓流釣りや山菜採りをする方、農業に従事する方、熊の出没が多い地域で暮らす方など、幅広い方がスプレーの備えを検討するようになっています。スプレーを持つ安心感は、アウトドア活動を落ち着いて楽しむうえでも意味があります。

特に、猟師や林業関係者、山岳ガイド、送電線・通信設備の点検業務などで熊の生息地に日常的に立ち入る方は、熊との遭遇率が特に高いといえます。こうした方には、実際に噴射する感覚まで確かめられるイナート缶での訓練を積極的におすすめします。

ただし、スプレーはあくまで最後の手段です。熊鈴の使用や食料管理、出没情報の確認など、そもそも遭遇を避ける予防策が最優先という点は、専門家の間でも共通した見解のようです。

イナート缶で覚える、正しい訓練の流れ

熊スプレーの噴射練習をしている様子

ここで紹介する動作のうち、取り出し・安全装置の解除・構えるところまでは、本番の熊スプレーでも中身を減らさず練習できます。実際に噴射する感覚まで確かめたい方だけ、イナート缶に持ち替えましょう。

訓練は、周囲に人・動物・車両・建物がなく、火の気のない広い屋外で行うのが基本です。公園やキャンプ場など、不特定多数が利用する場所での無断噴射は避けましょう。

管理者の許可を得た私有地や、専用の訓練スペースがおすすめです。イナート缶とはいえ、噴射されたガスや液体が目や顔に当たると不快に感じることがあるので、慎重に行いましょう。

また缶が高温になると内圧が高まることがあるため、炎天下での取り扱いにも注意してください。

訓練のステップと、意識したいポイント

まず、腰ベルトやショルダーハーネスなど、自分が片手で最も素早く取り出せる位置にホルスターを装着します。利き手側、反対側、胸元など、実際にいくつか試してみましょう。

ザックや雨具を着た状態でも引っかからない位置を選ぶのがコツです。熊一目散の公式サイトも、理想は「1秒以内に噴射できる装着位置」だと案内しています。

次にバックルを外しながらスプレーを素早く引き抜き、製品の手順に従って安全装置を解除し、安定した姿勢で構えます。ここまでは本番缶で練習して問題ありません。噴射口を目標へ向けて実際に噴射する動作まで確認したい場合は、イナート缶に持ち替えましょう。

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一連の動作は、体が覚えるまで繰り返すのが理想です。最初はゆっくりでも構いません。あわせて風向きを確認する習慣もつけておくと安心です。

練習では毎回風向きを確認し、自分や同行者へ噴霧が戻らない位置から、風によって流される方向や霧の広がり方を目視で確認しましょう。

ただし実際の遭遇時に、風向きを変えるため熊へ近づいたり、周囲へ回り込んだりするのは危険です。製品の取扱説明に従い、自分と熊の間に噴霧の壁を作ることを意識してください。

可能であれば、家族や友人と一緒に「熊が突進してくる場面」を想定したロールプレイをするのも効果的です。UDAP社もこうした模擬訓練を積極的にすすめており、事前に家族で練習していたことが実際の遭遇時に役立った例も紹介されています。

訓練はどのくらいの頻度でやればいい?

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一般的には、本物の熊スプレーを噴射する手前まで訓練するのでも十分効果があると思います。

イナート缶を用意して実際噴射まで訓練する必要性が高いのは、仕事等で積極的に熊生息地に入る方だと思います。

ホルスターの位置や着脱方法が変わったとき、新しいスプレーを買ったときも、必ず新しい環境であらためて練習してください。イナート缶は残量がある範囲で複数回練習できるので、本番缶を無駄にせずに済むのが大きなメリットです。

ただし多くは再充填できない使い切りタイプです。噴射できる合計時間は製品によって異なるため、購入前に必ず確認しましょう。

手順に慣れてきたら、ホルスターから取り出して構えるまでの時間を計測してみましょう。UDAP社は具体的な回数ではなく、安全装置の解除・噴射・安全状態への復帰を、素早く正確に行えるまで練習するよう案内しています。

回数や秒数といった数字だけを目標にせず、ザックや手袋を着けた実際の装備で、確実に操作できることを優先してください。

ホルスターの選び方と、つける位置のコツ

ホルスターの選び方と、つける位置のコツ
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訓練と切り離せないのが、専用ホルスター(ホルダー)選びです。熊スプレーをザックの中にしまっていたのでは、いざという時にとっさに取り出せません。

腰ベルトやバックパックのショルダーハーネスに固定できるホルスターを使い、すぐ引き抜ける位置に装着しておくのが基本です。

ホルスターにはチェストハーネス型やベルトポーチ型など、いろいろなタイプがあります。自分の活動スタイルや体型に合ったものを選びましょう。

取り付け位置に絶対の正解はありません。利き手側、反対側、胸元など実際に試して、自分が一番動きやすい位置を訓練の中で見つけることが大切です。

おすすめのイナート缶(練習用熊スプレー)——国内外の主要製品

ここからは、実際に噴射するところまで練習したい方——特に熊の生息地に日常的に立ち入る方向けに、日本国内で手に入りやすい主要イナート缶をご紹介します。各製品の情報は、メーカーや販売店の公式情報をもとにまとめました。在庫状況は変わることがあるので、購入前に必ず最新情報をご確認ください。

UDAP 練習用ベアスプレー(イナート缶)

UDAP社の練習用イナート缶

アメリカ・モンタナ州のUDAP(ユーダップ)社が作る練習専用のイナート缶です。UDAP本番缶と同じ噴射圧力を保ちながら、カプサイシンは一切含まない仕様になっています。

日本でもUDAPの本番缶を使う方が多く、その分イナート缶のニーズも高い製品です。形状や重さも本番缶とほぼ同じなので、ホルスターを使った一連の動作練習にぴったりです。

なお、UDAPには複数の製品ラインがあります。本番缶のサイズ(7.9オンスモデルや9.2オンスのマグナムモデルなど)に合わせてイナート缶も選べば、重量バランスまで再現した訓練ができます。

  • 中身:カプサイシンなし(不活性成分)
  • 噴射特性:本番缶と同等の噴射圧力(モデルにより異なります)
  • 用途:ホルスター取り出し・安全ピン解除・噴射の反復訓練

フロンティアーズマン 練習用ベアスプレー(SABRE社)

フロンティアーズマンの練習用イナート缶

現行モデルは「Frontiersman MAX 7.9oz Practice Bear & Mountain Lion Spray」という製品名です。本番缶と同じ発射機構・噴射距離で作られていると公式に説明されています。

販売者やモデル、付属品、在庫状況は変わることがあるので、購入前に商品ページで確認してください。フロンティアーズマンの本番缶をお使いの方は、発射機構や噴射距離が近い同ブランドのイナート缶を選ぶと、本番を想定した訓練に向いています。

ベアアタック トレーニングスプレー(ラングスジャパン)

ラングスジャパンが国内正規販売する練習用スプレーです。内容量234ml・重さ280g、噴射距離は約12m、噴射時間は約6〜7秒と、本番缶に近い性能で練習できます。

中身は不活性成分100%で、公式サイトでも再充填はできない使い切りタイプと案内されています。50℃を超える場所には置かず、小さなお子様の手が届かない場所で保管してください。

カールホーネック OC5100(2026年5月発売)

欧州の老舗ペッパースプレーメーカー、カールホーネック社が2026年5月に発売した新しいトレーニングスプレーです。内容量225ml・重さ253g、噴射距離は約10m、噴射時間は約4秒で、中身は水に保存用のアルコールをごく微量加えたものです。

使用期限は2年なので、購入時期にあわせて計画的に使い切るとよいでしょう。

国産の練習用スプレー(日本製)

熊一目散の練習用スプレー

メーカーが「日本初の純国産熊撃退スプレー」として展開する「熊一目散」(バイオ科学株式会社・徳島県製造)には、練習用スプレーも用意されています。噴射距離・噴射時間は本番缶と同じに作られていますが、公式サイトによると噴射時の霧の形状はやや異なります。

アルコールが主成分のため火気のない場所で練習し、アルコールアレルギーや敏感肌の方はご注意ください。専用ホルダーは別売りです。理想の装着位置は「1秒以内に噴射できる位置」だと公式サイトで案内されています。

遠距離で煙幕を作る「S字噴射」と、接近時の「頭部への直噴」という2つのテクニックも練習できます。

国内の通販サイトでは、LPガスを使用した日本製の練習用缶も取り扱われています。成分はアルコール類が主体で色素を含まず、噴射距離は約8m、噴射時間は約9秒程度と、本番缶に近い感覚で訓練できます。

アルコールを含む製品は引火のおそれがあるため、火の気のない安全な場所で練習してください。

  • 中身:アルコール類(カプサイシンなし・色素なし)
  • 噴射距離:約8m程度
  • 噴射時間:約9秒程度

後悔しないイナート缶の選び方、3つのポイント

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イナート缶を使った実噴射練習をすると決めたら、「安いから」「手に入りやすいから」だけで選ぶのはもったいないです。

訓練の効果をしっかり高めるために、次の3つのポイントを基準に選びましょう。

ポイント1:本番缶と同じメーカー・同シリーズを選ぶ

一番大事なのは、本番缶との操作感が一致しているかどうかです。安全ピンの構造やノズルの形状、グリップのバランスが違うと、練習で身につけた動きを本番で活かせないことがあります。

UDAP本番缶ならUDAPのイナート缶を、カールホーネックのペッパーマンならトレーニングスプレーを、というようにセットで揃えるのが理想です。

ポイント2:噴射距離・噴射時間の再現性を確認する

練習用缶の噴射の飛び方が本番缶とかけ離れていると、距離感の練習にはなりません。製品スペックに「本番缶と同等の噴射圧力」と書かれているか確認しましょう。

なお噴射距離のスペック値は、無風の環境で計測されていることが多いです。屋外では向かい風、横風、雨、障害物などによって、噴霧の到達距離や広がる方向が変わります。公称距離をそのまま有効距離と考えず、風の影響を受けることを前提にしておきましょう。

ポイント3:繰り返し使えるかどうかを確認する

イナート缶は複数回の練習を前提に作られていますが、多くは再充填できない使い切りタイプです。噴射できる合計時間は製品によってさまざまで、1回で使い切ってしまうような小容量のものは、継続的な訓練には向きません。

使用期限が設けられている製品もあるので、期限内に練習を終えられるよう計画的に準備しましょう。

本番缶を携行・使用するときに知っておきたい基礎知識

せっかくの訓練の成果を本番で発揮するには、携行の仕方や使用時の注意点もあわせて押さえておきましょう。

携行位置と誤噴射防止

熊スプレーはザックの中にしまい込まず、腰ベルトやショルダーハーネスに装着したホルスターに入れ、いつでも取り出せる状態で携行するのが基本です。ザックの中だと、目線をそらしたりしゃがんだりする動作が必要になり、緊急時の対応が大きく遅れてしまいます。

誤噴射への対策も欠かせません。2023年12月には東海道新幹線の車内で熊スプレーが誤噴射し、乗客5人が病院搬送される事故が起きました。

鉄道会社の現行ルールでは、高圧ガスや可燃性液体などを含む危険品は原則として持ち込み禁止です。ただし、小売店で通常購入できる一部の製品は、内容量・重量・梱包方法などの条件を満たせば例外となる場合があります。

熊スプレーが例外に該当するかは製品や鉄道会社によって判断が異なる可能性があります。乗車前に製品名・成分・容量を伝えて確認し、持ち込み可能と確認できた場合のみ、安全装置を確かめ、漏えい・誤噴射を防げる堅牢なケースへ収納してください。

「どうすれば誤噴射を防げるか」を意識しながらホルスターへの収納動作を練習することも、イナート缶訓練の一環として役立ちます。

噴射タイミングと噴射距離の目安

たとえばUDAPの7.9オンス・225gモデルと対応する練習缶#12-Iは、公称噴射距離が最大約9.1m(30フィート)です。ただし、噴射を始める距離は製品の噴射特性やメーカーの説明によって異なります。

「必ず◯mまで引きつける」という一律の基準ではなく、自分が携行する本番缶のラベルと取扱説明書で、噴射距離や使用手順を事前に確認してください。

スペック表の噴射距離は、無風の環境でのテスト値であることが多いです。屋外では風や障害物の影響で短くなることがあるので、この点を練習のときから意識しておくと、本番で距離感を過信せずに済みます。

噴射後の行動

噴射したあとは、その場に長くとどまらず、できるだけ速やかに安全な場所へ退避しましょう。カプサイシン成分は空気中に漂い続けることがあり、風向きによっては自分自身にも影響が及ぶことがあります。

目や皮膚に付着した場合は、こすらず清潔な水で15〜20分ほど洗い流すのが基本の対処法です。コンタクトレンズは早めに外し、症状が強い場合や呼吸が苦しい場合は、製品ラベルを持って医療機関に相談してください。

訓練のあとの点検・保管・廃棄で気をつけたいこと

訓練後のチェックと保管

練習のあとは缶の残量を確認し、ノズルに詰まりや変形がないかもチェックしておきましょう。保管温度や缶の向きは、製品ごとの表示に従うのが基本です。直射日光、高温多湿、火気を避けて保管しましょう。

たとえばベアアタックのトレーニングスプレーは50℃を超える場所を避けるよう案内されています。製品によって条件が異なるので、必ずラベルを確認してください。

特に夏の車内は短時間で高温になります。イナート缶・本番缶ともに置きっぱなしにしないでください。また、地震などで重いものがスプレー缶の上に落ちると、缶に亀裂が入り中身が噴射されてしまうことがあるので、保管場所の安全性にも気を配りましょう。

使用期限と点検のタイミング

イナート缶にも使用期限が設けられている製品があります。製品ごとに異なるので、購入時に必ず確認してください。期限が切れた缶は内圧が変化している可能性があり、練習での噴射の感覚も変わってしまうことがあります。

本番缶の有効期限は製品によって異なりますが、多くのメーカーで製造から3〜5年程度が目安のようです。イナート缶の点検にあわせて、本番缶の使用期限も定期的にチェックしておきましょう。

廃棄方法は製品ごとに確認を

使用済み・期限切れの缶は、穴を開けたり自己判断で分解したりせず、まずメーカーと自治体の廃棄ルールを確認しましょう。内容物や缶にガスが残っている場合は、清掃担当窓口や購入した販売店へ相談するのが安全です。

本番缶を公園や住宅地などで廃棄目的に噴射するのは避け、迷ったときは地元の清掃事務所や消防署に相談してください。

よくある疑問に答える——イナート缶 Q&A

Q. イナート缶だけで練習しても本当に効果がある?

練習の目的は「本番缶を噴射して熊を追い払う練習」ではありません。「パニック状態でも正確に操作できるよう体に動作を覚えさせること」です。「ホルスターから取り出す→安全ピンを外す→構える」という流れは、本番缶でも十分に練習できます。

実際の噴射音や勢いまで体感しておきたい方——特に熊の生息地に日常的に立ち入る方には、イナート缶での反復練習がとても効果的です。

Q. 本番缶を1回だけ試し打ちしてはいけない?

一度噴射した缶は内圧が下がっていて、いざという時に十分な噴射距離や量を発揮できないおそれがあります。そのため「試し打ちは本番缶ではなく、イナート缶で」というのが基本的な考え方です。

本番缶は緊急事態のために、内圧を保ったまま保管しておきましょう。期限切れの本番缶についても、自己判断で試射やガス抜きを行うのではなく、メーカーや販売店、自治体の清掃担当窓口へ処分方法を確認してください。

Q. 屋内で練習しても大丈夫?

イナート缶の中身が水やアルコール類であれば、屋内で安全装置を付けたまま、ホルスターの着脱や構えまでの動作を確認することも可能です。安全装置を解除する練習や実噴射は、周囲の安全を確保した屋外で行いましょう。

ただし実際に噴射すると周囲が濡れたり、ガス圧の音が出たりします。「ホルスターから抜いて構えるまで」の確認だけなら、屋内でも十分練習できます。

Q. 子どもと一緒に訓練できる?

熊の出没が多い地域に住んでいる方や、家族で山に入る機会がある方は、子どもにも熊スプレーの存在と役割を伝えておくと安心です。ただし実際の噴射練習は大人が主体で行いましょう。

イナート缶であっても、小さな子どもが不用意に噴射しないよう管理には十分注意してください。

まとめ——「備える」から「使える」へ。イナート缶が変える安全の質

2025年度のクマの出没情報は50,801件に達し、人身被害は216件・被害者238人・死亡13人となりました。被害者数と死亡者数はいずれも過去最多です。

ただ、持っているだけでは十分な備えとはいえません。本当の備えとは「いざという時に確実に使いこなせる状態」のことです。多くの方は、本番缶を使った「取り出す→安全装置解除→構える」までの練習で、この状態に近づけます。

そのうえで、猟師や林業関係者、山岳ガイドなど熊の生息地に日常的に立ち入る方は、噴射までの動作を体で覚えられるイナート缶を積極的に取り入れることで、さらに安心感を高められるでしょう。

登山やキャンプ、渓流釣り、山菜採りなど、自然に踏み込む前の準備として、まずは本番缶で一連の動作を体に刻んでおきましょう。そのうえで必要な方は、イナート缶での実践練習も取り入れてみてください。

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