熊撃退スプレーを「常に腰に付けておく」ことが日常業務になりつつある職種は、ここ数年で大きく裾野が広がりました。以下では ①現在よく携行している主な仕事 ②利用者層がどう変わってきたか の順に整理します。
クマ撃退スプレーは劇物です。使い方・注意点・熊との実践における使用方法・廃棄方法などの事前学習が大切です。熊対策の専門家・プロの発信情報を踏まえて情報を記載しています。
記事のポイント
- 携行が当たり前・普及しつつある仕事
- 利用者層拡大の流れ
著者PROFILE

経歴:大手アウトドアショップで寝袋・マットのコーナーを中心に約4年間の接客経験に加え、独自の調査・研究を重ね、アウトドア情報を発信し15年以上。無積雪登山・雪山登山・クライミング・アイスクライミング・自転車旅行・車中泊旅行・ファミリーキャンプなど幅広くアウトドアを経験。(詳細プロフィール) 名前:Masaki T
携行が当たり前・普及しつつある仕事
区分 | 具体的な職種・場面 | 携行する主な理由・状況 |
---|---|---|
林業・木材関連 | 伐採作業員、下刈り・造林班、林道補修 | 伐採音でクマを刺激しやすく、車両の入れない奥地で作業するため。 |
鳥獣対策・狩猟 | 猟友会、有害捕獲班、自治体の鳥獣被害対策実施隊 | 捕獲わな点検や追い払い作業で至近距離遭遇が多い。 |
山岳ガイド・登山ツアー | 登山ガイド、山岳救助隊 | 登山道での遭遇事例が増え、ツアー会社の装備基準に追加されるケースも。 三重県警クマスプレー配布へ |
インフラ保守・測量 | 電力・通信線の巡視員、測量・土木現場監督 | 山中の電柱・橋脚点検や林道測量で単独行動が多い |
農林水産業 | 果樹農家、養蜂家、山菜・きのこ採取の生産者 | 果実や蜂箱を狙うクマ対策として。町レベルで購入補助金を創設する自治体が増加 松田町公式ホームページホーム|平内町ウェブサイト-Hiranai Town- |
配達・交通サービス | 郵便・新聞配達員、路線バス運転手(山間部) | 早朝・夜間に生活圏へ下りてくるクマとの遭遇が課題。秋田県小坂町では新聞配達員が携行を要望 |
報道・映像制作 | テレビ局クルー、カメラマン | クマ特集・自然番組の撮影時の安全管理として。 |
自衛隊・警察等 | 陸自演習場勤務、山岳警備隊 | 山地訓練中の急襲リスクから、防衛省が物品調達で導入 。 |
一般アウトドア愛好家 | ハイカー、渓流釣り、山菜採り | 小型モデルが普及し、量販店・ECで購入しやすくなった。 |

私が登山用品店に働いていた2010年当時は熊撃退スプレーは販売されていましたが、滅多に売れない特殊な商品でした。しかし、時が過ぎいつの間にか山林や里山で活動する方へ普及するアイテムとなっているようです。
利用者層拡大の流れ
年代 | 主な携行者 | 背景 |
---|---|---|
~2000年代 | 猟友会、林業作業員が中心 | 山仕事・狩猟従事者のみが購入できる輸入品が主流 |
2010年代前半 | 山岳ガイド、登山愛好家が加わる | 北アルプスや北海道でのヒグマ事故が報道され、登山装備店で扱い開始 |
2010年代後半 | インフラ巡視員、測量会社が導入 | 労災対策として民間企業がリスクアセスメントに組み込む |
2020-2022年 | 農家・配送業者へ拡大 | 高齢化で農地と住宅が隣接、生活圏出没が常態化 |
2023年度以降 | 一般住民・自治体がまとめ買い | 人身被害件数が218人で過去最多 ※環境省速報値 環境省 テレビ報道で需要急増、ホームセンターやECで売上2~3倍との報道 YouTube株探 松田町・平内町などが購入補助金制度を開始し、高齢農家も携行 |
なぜ広がったのか
- 被害の急増と市街地出没
2023年度は月別統計開始以来最多ペースで人身被害が発生し、都市近郊でも襲撃事故が報じられたためリスク認知が一気に高まった。 - 製品の小型化と入手性向上
片手操作できる200 g級モデルが登場し、ECサイトで翌日配送が可能に。 - 自治体・企業の装備義務化
労災防止ガイドラインや地方自治体の内規で「スプレー携行」を明文化する例が増え、予算化・補助金化が進行中 松田町公式ホームページホーム|平内町ウェブサイト-Hiranai Town-
まとめ
- 林業・鳥獣対策・登山ガイドといった専門職だけでなく、農家・配達員・自治体職員・一般アウトドア愛好家まで携行対象が急拡大しています。
- 拡大の直接要因は ①過去最多水準の人身被害 ②軽量モデルと販売網の充実 ③自治体補助金や企業の装備義務化 の三つです。
- 2025年時点では、一部自治体が「高齢農家世帯への無償配布」を検討する段階に入り、今後は地域防災用品として定着する可能性があります。
現場の実務では「風向き確認と至近距離(5–7 m)まで我慢」が鉄則とも言われます。訓練の有無で効果は大きく変わりますので、携行を義務づける場合は年1回以上の操作訓練をセットにすることが望ましいでしょう。
熊撃退スプレーのよくある質問
熊が出没による人身被害の多い都道府県はありますか?
環境省の資料によると、2019年~2024年の熊による人身被害件数が多い都道府県トップ5は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、新潟県、福島県、長野県がほぼ占めています。
本州はツキノワグマですが、北海道はより巨体のヒグマで気性も荒いと言われています。北海道は地域によってはヒグマ出没が頻度が多く社会問題になっています。


熊鈴と併用すべき?
クマと出会わない対策が第一。鈴・ラジオで存在を知らせ、スプレーは最終手段です。
クマの専門家の方曰く熊鈴の効果は
- 無風の開けた場所で最大300 m。
- 強風・沢音・密林では大幅に減衰。
- 「威嚇」ではなく“こちらの存在を知らせる手段” と割り切る。
と言われています。熊鈴は鈴型ではなく、音の大きなベル型が推奨です。
ただ、過去に人を襲って食べた熊は熊鈴の音を聞くと逆に寄ってくるという話もあり、過去にそういう事件があって解決していない山域では熊鈴は避けたほうが良いという意見もあります。
熊撃退スプレーの成分は何?


主成分はカプサイシンおよび関連カプサイシノイドでOC(Oleoresin Capsicum)と呼ばれます。これらは唐辛子に含まれる辛味成分で、哺乳類の粘膜や眼球のTRPV1受容体を強烈に刺激し、瞬時に痛覚・熱覚を引き起こします。
OCは溶剤(水溶性と油性がある)に溶かされ、ガス(窒素or二酸化炭素or代替フロンなど)と共にスプレー缶に詰めれれています。


最強の熊撃退スプレーはどれですか?





スペック的にも実績的にも「カウンターアソールト CA290」が最強だと思います。詳しくは下記ページをご参照。


売れている人気の熊撃退スプレーはどれですか?





価格が手頃でコンパクトな『ポリスマグナム B-609』が非常に人気です。ただしヒグマは非対応です。詳しくは下記ページをご参照。


カプサイシノイド濃度 が最大で2%なのはなぜですか?
米国環境保護庁(EPA)登録製品では総カプサイシノイド濃度 1〜2% が標準とされています。これは人体に対する非致死性と、野生動物に対する即効的な忌避効果のバランスを取った値であり、2%を超える処方は規制対象となり一般流通しません。


熊に遭遇した時の対処法ってあるの?



約50年クマ研究されてきた日本ツキノワグマ研究所 米田一彦さんの『熊に遭遇した時の対処法』の動画(約35分)が非常に有用です!
冬季は噴射力が落ちる?
気温0 °C付近でガス圧低下が起きる。内ポケット携行で温度を保つと良い。
人間にご誤噴射したらどうなる?


猛獣対策の熊撃退スプレーは対人用の護身用の催涙スプレーの何倍も強力な劇薬です。噴射物が僅かに目に入る・皮膚に付着するだけで数時間の痛みが続くようです
緊急時でも周囲に人がいる状況での使用も最大限の配慮が必要で、安易に噴射して自分にかかって動けなくなった例もあるようです。
誤噴射や被爆による応急処置
- 内容物が目に入った場合:すぐに流水で15分以上やさしく洗眼し、コンタクトレンズは5分以内に取り外す。
- 皮膚や衣服に付着した場合:衣類を脱ぎ、ただちに流水で15分以上洗い流す。
- 症状が改善しない場合は本製品を持参のうえ医療機関を受診する
海外や日本での誤噴射事故も複数件あります。


熊撃退スプレーって本当に必要?
その昔は仕事や研究調査で積極的にクマの生息域に入る方が携行するものでした。ところが近年は里山・市街地にも出没し被害が多くなる年もあり、出没頻度が多い地域では市町村がクマ撃退スプレーを推奨し、補助金がでている地域もあります。




熊に熊撃退スプレーを噴射している動画はありますか?
海外に実際に噴射している様子の動画がありました。熊が木に登ってるのはちょっと怖いですね。
熊スプレーは飛行機で運べますか?
スプレー缶は飛行機で荷物として運べません。例えば、東京から北海道まで行く場合は、熊撃退スプレーは「現地で購入」か「手持ちのスプレーを陸送」が必要になります。
以下の動画で輸送方法について解説されていて、参考になります。
熊撃退スプレーを使えば万が一襲われても助かりますか?
熊の専門家の方は「100%はないけれど90%助かる」と言われています。
過去、業務で9回襲われてますが、通常の5倍~10倍激しく攻撃してきた熊でも熊スプレーで撃退できた(以下の動画をご参照)
熊が近づいてきた時、熊撃退スプレーはどの距離で噴射したらよいですか?
5m~3m程度まで引き付けて噴射するのが推奨、と言われています。熊撃退スプレーのスペックは無風状態での測定値で、現実には風の影響を受けますので、確実に熊に届く距離が5m~3m程度と言われています。
10mだと風で飛ばされて効果がありません。5m,3m,2mと段階的に噴射します。最初の5mの距離での噴射でほとんどの熊が逃げます。
使用期限切れは使える?
刺激成分が劣化し効果が落ちる恐れがあるため推奨されていません。
使用期限の切れた熊撃退スプレーの処分方法は?
万が一用ですので、全く使用せずに使用期限を過ぎるケースがほとんどだと思います。
熊撃退スプレーは劇薬ですので、僅かに成分が目や皮膚に付着するだけで痛みが生じます。安全に処分する方法の動画がモンベルで紹介されていましたので、下記動画をご参考にしてください。


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