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羅臼岳ヒグマ事件(2025年)で熊撃退スプレーは使われたのか?|知床財団の報告書を解析

羅臼岳ヒグマ事件(2025年)で熊撃退スプレーは使われたのか?|知床財団の報告書を解析

2025年8月14日に北海道斜里町の羅臼岳登山道で発生した羅臼岳ヒグマ事件(※1)について、知床財団(※2)が報告書を公開されています。既に第1報(2025/8/21)と、第2報(2025/9/1)がPDF資料として公表されています。

※1羅臼岳ヒグマ事件

2025年8月14日、北海道・知床半島の羅臼岳登山道で、東京在住の26歳男性(Sさん)がヒグマに襲われ死亡しました。友人が巻き込まれる様子を目撃し、直ちに警察に通報。その翌日、捜索で血痕や衣服、財布などが確認され、死亡が確認されました。死因は「全身多発外傷による失血」です。現場近くで駆除されたメス熊と2頭の子グマが加害個体とされており、DNA鑑定により特定が進められています。この熊は地域住民から「岩尾別の母さん」と呼ばれており、人に慣れていた可能性があります。事件を受け、登山道や知床五湖への立ち入り規制と注意喚起が強化されました。

※2知床財団

公益財団法人 知床財団は、北海道知床半島の自然環境を未来へ継承することを目的に1988年に設立されました。活動の柱は「知る・守る・伝える」で、動植物や環境の調査、森づくりや野生動物保護などの保全活動、そして教育・普及を通じて自然の大切さを伝えています。背景には、斜里町が始めた「しれとこ100平方メートル運動」があり、買い戻した土地の自然再生を進めてきました。現在は約40名のスタッフが、知床自然センターや羅臼ビジターセンターなどを拠点に活動し、地域と協力しながら世界自然遺産・知床の豊かな自然を守り続けています。

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今回の事件は、非常に非常に痛ましい事件です。心よりお悔やみ申し上げます。

私自身、北海道育ちで、登山歴が15年以上あり、北海道の山々(大雪山・羊蹄山・樽前山)も登ってきた経験もあり、今回の事件はかなりの衝撃を受けました。その昔、アウトドアショップの同僚に知床半島でフクロウの調査をされている方がいて、話をきいたことがありますが、「森の中を歩くときは熊スプレーをいつでも発射できるように手に持って移動します」と言っていたのを思い出します。

目次

熊撃退スプレーは使われたのか?

この痛ましい事件において、様々な報道がされていますが、個人的に気になっていたのが「熊撃退スプレーは使われたのか?」です。身体的には到底太刀打ち困難な対ヒグマにおいて、一時的に有効な対処法とされているのが熊撃退スプレーです。様々なメディアの報道で、使われたのかどうなのかよくわかりませんでしたが、今回の知床財団の報告書に記載がありましたので、一部転載させていただきます。

現時点での報告書からすると、

  • 被害者クマスプレーの携行や使用に関する証拠は確認されておらず、不明。
  • 同行者は使用履歴が不明かつヒグマに対応した製品ではないクマスプレーを所持していたが噴射できていない

となっているようです。

以下、報告書の熊スプレーに関する抜粋文です。

事故発生以前

  • 2025年8月10日:岩尾別コースの 銀冷水(1,040m)~大沢(1,120 m)間の登山道上で0歳の子グマ2頭を連れた親子グマが目撃される。この親子グマは利用者を気にせず登山道を登ってきたため、登山者(別パーティのガイド含む)がクマスプレーを構えて後退する事態となった(スプレー噴射なし)。提供写真による外見上の特徴から、この親子グマは今回の捕獲個体と同一である可能性が高いと推察される。
  • 2025年8月12日:弥三吉水間(780m)~ 銀冷水(1,040m)の登山道上で単独の成獣サイズのヒグマ(外見特徴:濃茶色、体毛⾧め)が下山中の登山者によって目撃された。目撃者に接近したことからクマスプレーが使用されているが、使用量は微量である。この個体は目撃者から一時離れたものの、遭遇から退避まで約5分間にわたり接近と離反を繰り返す行動を見せた。後日、目撃者から「報道で見た8月10日に羅臼岳で目撃されたヒグマの特徴と似ていた」との情報提供があった。

事故発生時の状況(2025/8/14)

  • 被害者はクマ鈴を携行していた。被害者自身のクマスプレーの携行や使用に関する証拠は確認されておらず、不明である。
  • なお、同行者は「クマよけスプレー」と謳っている商品を所持していたが、ヒグマに対応した製品ではなく、かつ再利用品であった。事故発生時の初期対応において使用を試みたが、噴射できていない。
  • 第2報追記:同行者が所持していたのは、使いかけのものであり、かつ、使用履歴が不明だったとの情報が得られているが、現在詳細を調査中である。

最後に

知床自然センター等の国立公園内のビジターセンター、岩尾別登山道の入口にある木下小屋などでは主に登山者を対象としてクマスプレーのレンタルを実施しており、レンタルにあたっては、使用方法やヒグマ対処法のレクチャーを併せて行っている。」 との記載もあり、今後の知床周辺の登山者にも知っていただきたいと思っています。

今回の事故により尊い命が失われたことに、心より哀悼の意を表します。亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りするとともに、ご遺族の皆様に深くお悔やみ申し上げます。

熊撃退スプレーのよくある質問

熊が出没による人身被害の多い都道府県はありますか?

環境省の資料によると、2019年~2024年の熊による人身被害件数が多い都道府県トップ5は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、新潟県、福島県、長野県がほぼ占めています。

本州はツキノワグマですが、北海道はより巨体のヒグマで気性も荒いと言われています。北海道は地域によってはヒグマ出没が頻度が多く社会問題になっています。

熊鈴と併用すべき?

クマと出会わない対策が第一。鈴・ラジオで存在を知らせ、スプレーは最終手段です。

クマの専門家の方曰く熊鈴の効果は

  • 無風の開けた場所で最大300 m。
  • 強風・沢音・密林では大幅に減衰。
  • 「威嚇」ではなく“こちらの存在を知らせる手段” と割り切る。

と言われています。熊鈴は鈴型ではなく、音の大きなベル型が推奨です。

ただ、過去に人を襲って食べた熊は熊鈴の音を聞くと逆に寄ってくるという話もあり、過去にそういう事件があって解決していない山域では熊鈴は避けたほうが良いという意見もあります。

熊撃退スプレーの成分は何?
熊撃退スプレーの主な成分とその役割

主成分はカプサイシンおよび関連カプサイシノイドでOC(Oleoresin Capsicum)と呼ばれます。これらは唐辛子に含まれる辛味成分で、哺乳類の粘膜や眼球のTRPV1受容体を強烈に刺激し、瞬時に痛覚・熱覚を引き起こします。

OCは溶剤(水溶性と油性がある)に溶かされ、ガス(窒素or二酸化炭素or代替フロンなど)と共にスプレー缶に詰めれれています。

最強の熊撃退スプレーはどれですか?
COUNTER ASSAULT ca290 2 羅臼岳ヒグマ事件(2025年)で熊撃退スプレーは使われたのか?|知床財団の報告書を解析
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スペック的にも実績的にも「カウンターアソールト CA290」が最強だと思います。詳しくは下記ページをご参照。

売れている人気の熊撃退スプレーはどれですか?
B 609 1 羅臼岳ヒグマ事件(2025年)で熊撃退スプレーは使われたのか?|知床財団の報告書を解析
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価格が手頃でコンパクトな『ポリスマグナム B-609』が非常に人気です。ただしヒグマは非対応です。詳しくは下記ページをご参照。

カプサイシノイド濃度 が最大で2%なのはなぜですか?

米国環境保護庁(EPA)登録製品では総カプサイシノイド濃度 1〜2% が標準とされています。これは人体に対する非致死性と、野生動物に対する即効的な忌避効果のバランスを取った値であり、2%を超える処方は規制対象となり一般流通しません。

熊に遭遇した時の対処法ってあるの?
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約50年クマ研究されてきた日本ツキノワグマ研究所 米田一彦さんの『熊に遭遇した時の対処法』の動画(約35分)が非常に有用です!

冬季は噴射力が落ちる?

気温0 °C付近でガス圧低下が起きる。内ポケット携行で温度を保つと良い。

人間にご誤噴射したらどうなる?
人間に熊撃退スプレーは危険!誤噴射リスクと具体的な事故例と応急処置

猛獣対策の熊撃退スプレーは対人用の護身用の催涙スプレーの何倍も強力な劇薬です。噴射物が僅かに目に入る・皮膚に付着するだけで数時間の痛みが続くようです

緊急時でも周囲に人がいる状況での使用も最大限の配慮が必要で、安易に噴射して自分にかかって動けなくなった例もあるようです。

誤噴射や被爆による応急処置

  • 内容物が目に入った場合:すぐに流水で15分以上やさしく洗眼し、コンタクトレンズは5分以内に取り外す。
  • 皮膚や衣服に付着した場合:衣類を脱ぎ、ただちに流水で15分以上洗い流す。
  • 症状が改善しない場合は本製品を持参のうえ医療機関を受診する

海外や日本での誤噴射事故も複数件あります。

熊撃退スプレーって本当に必要?

その昔は仕事や研究調査で積極的にクマの生息域に入る方が携行するものでした。ところが近年は里山・市街地にも出没し被害が多くなる年もあり、出没頻度が多い地域では市町村がクマ撃退スプレーを推奨し、補助金がでている地域もあります。

熊に熊撃退スプレーを噴射している動画はありますか?

海外に実際に噴射している様子の動画がありました。熊が木に登ってるのはちょっと怖いですね。

熊スプレーは飛行機で運べますか?

スプレー缶は飛行機で荷物として運べません。例えば、東京から北海道まで行く場合は、熊撃退スプレーは「現地で購入」か「手持ちのスプレーを陸送」が必要になります。

以下の動画で輸送方法について解説されていて、参考になります。

熊撃退スプレーを使えば万が一襲われても助かりますか?

熊の専門家の方は「100%はないけれど90%助かる」と言われています。

過去、業務で9回襲われてますが、通常の5倍~10倍激しく攻撃してきた熊でも熊スプレーで撃退できた(以下の動画をご参照)

熊が近づいてきた時、熊撃退スプレーはどの距離で噴射したらよいですか?

5m~3m程度まで引き付けて噴射するのが推奨、と言われています。熊撃退スプレーのスペックは無風状態での測定値で、現実には風の影響を受けますので、確実に熊に届く距離が5m~3m程度と言われています。

10mだと風で飛ばされて効果がありません。5m,3m,2mと段階的に噴射します。最初の5mの距離での噴射でほとんどの熊が逃げます。

使用期限切れは使える?

刺激成分が劣化し効果が落ちる恐れがあるため推奨されていません。

使用期限の切れた熊撃退スプレーの処分方法は?

万が一用ですので、全く使用せずに使用期限を過ぎるケースがほとんどだと思います。

熊撃退スプレーは劇薬ですので、僅かに成分が目や皮膚に付着するだけで痛みが生じます。安全に処分する方法の動画がモンベルで紹介されていましたので、下記動画をご参考にしてください。

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