現状、中綿(生地の内部に封入される保温材)として利用されているのは、ダウンと化繊(化学繊維)です。山岳・登山向けの寝袋に使われる中綿(ダウン・化繊)の特徴をまとめました。
ダウン
抜けてきたダウンを撮影してみました
山岳・登山用の寝袋の中綿として、広く普及しているのは鳥の羽であるダウンです。大きく分類するとグースダウン(がちょう)とダックダウンの2種類あり、グースダウンの方が羽が大きく、単位グラムあたりの膨らみも良く、羽自体の撥水力も最初から高いと、とあるメーカーの方から聞いています。そのため、ハイエンドモデルの寝袋には、グースダウンが使用されています。
ダウンの性能はフィルパワー(Fill Power,FP)で表現されます。フィルパワーとは、1オンス(約28.4g)のダウンをシリンダー内で圧縮し、一定の温度、湿度の条件下で、それが何立方インチに復元するかを測定したものです。フィルパワーの数値が高いほどダウンの空気含有量が多く、その大量に含まれる空気の断熱効果によって保温性に優れるため、数値の高いものほど高品質なダウンとされています。一般的に500フィルパワー以下は低品質ダウン、600~700フィルパワーで良質ダウンとされ、700フィルパワー以上は高品質ダウンとされています。
ダウンは、単位グラムあたりの保温力、圧縮率(どれだけ小さく収納できるか)、復元力(カチカチに圧縮した状態からどれだけ膨らむか)、耐久性(使用年数・頻度による性能の劣化しにくさ)が非常に優れていて、化学繊維で超えることができていないのが現状です。
また、数値で表現できない部分では、同程度の保温力のダウンと化繊の中綿が異なる登山用の寝袋に入り比べると、化繊の寝袋は「寒くはないが暖かくもない」という少し冷たい感じがするのに対し、ダウンの寝袋は入ってすぐにふわった暖かくなる”ぬくもり”が感じられます。
ダウンの羽を拡大すると、羽の先にも小さな羽が沢山生えているのが確認できます。この羽が対流しにくい空気を抱える(通称:デッドエア)ことで高い保温力が実現できています。
高い圧縮率の収納袋から、ダウンの寝袋を取り出すとしばらくはペチャンコに潰れていますが、徐々に膨らんできます。そして、人間が寝袋に入ると次第にダウンが膨張していきます。夜中にトイレでテントの外へ出ようとすると、隣で寝ている仲間のダウンの寝袋がパンパンに膨らんでいるのを何度も見てきました。このような、温度に反応して自然に膨張するような特性は、化学繊維にはほとんど見られません。
ダウンの気になる点として、
- 濡れると保温力が低下する
- 洗濯すると寝袋内のダウンが多少偏る
- 命の上に成り立っている
があります。
ダウンは濡れると、空気を抱えている小さな羽が閉じて(他の羽と密着し束になる)保温力が低下します。ダウンは水濡れしないように配慮が必要になってきますが、近年では封入するダウンに撥水加工された寝袋や、ダウン用の撥水剤でこの水濡れによる保温力低下を軽減することができます。撥水加工されたダウンは、保温力が低下しにくくなるだけでなく、湿った状態からの乾燥も早くなります。
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また、洗濯すると、ダウンがグシュっと濡れていくつもの羽が集まった固まりになり、乾燥機にかけると固まりの部分から膨らむため、ダウンの広がりにムラができて、コールドスポットとよばれる他の部分より中綿が薄く断熱力が低下した部分が発生しやすくなります。特に細いチューブ状の部分に発生しやすく、乾燥後に手でほぐして散らす作業が発生します。
最後に、ダウンは工業的に作られた物ではなく、鳥の命の上に成り立っていることです。そのため、ダウン製品を選ぶ場合は、そのことを理解して、大切に扱ってほしいと思います。ダウン製品を長く使うために特に大切なことは、使用後にしっかりと内部まで乾燥させることです。湿った状態で保管するとカビの発生などダウンが著しく劣化する可能性があります。
化学繊維
ファミリーキャンプ等の寝袋では化学繊維の中綿は多用され一般的ですが、山岳・登山用の寝袋として使われているのは少数派なのが現状です。
ダウンに比べた化繊の中綿の優れた点は、
- 繊維自体が全く保水しないため、万が一濡れても乾きやすい
- 濡れても膨らみがほとんど変わらず保温力も低下しにくい
- 洗濯などメンテナンスがしやすく、洗濯後の偏りも発生しない
というところでしょう。単位グラムあたりの保温力や、コンパクト性、復元力、耐久性、寝心地などがダウンに劣っても、あえて化繊綿を選ぶ方もいます。
例えば、
- 長期間の山行が多く、いままでダウンの濡れによる保温力低下に悩まされてきた方
- 沢登り、カヤック・カヌーなど水濡れのリスクが高いアクティビティをする方
が挙げられます。
現在、数あるアウトドアメーカーの中で登山用の寝袋として使えるレベルの化繊綿の開発に注力しているのは、ファイントラック、マウンテンハードウェアです。その特徴は製品紹介のところで記載したいと思います。
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著者PROFILE
2009年末から寝袋と関連装備に特化したこのサイトを開設。いつの間にか運営10年を超える老舗サイトに。ファミリーキャンプから無積雪期登山、厳冬期登山、バイクのキャンプツーリングに自転車旅行、車中泊など、アウトドアを幅広く経験。寝袋の宿泊数は100泊以上~500泊未満。狭い業界ですが、まだまだ知らないこと沢山あり、日々勉強中です☆
谷川岳の雪洞で宿泊
今まで様々な状況下で寝てきましたが、100泊以上経験してわかったのが、『保温力に余裕のある寝袋を用意すること』です。
雪山テントは換気にも注意(テントが埋まると酸欠に)
雨風や断熱材で守られた家と違い、アウトドアフィールドでの宿泊は天候や外気温の変化を大きく受けます。事前の天気予報より、当日の気温が-5℃程度低かった、などは日常茶飯事です。また、多くのキャンプ場は、最寄りの市街地よりも標高が高い事が多く、天気予報で知ることのできる最寄りの市街地の最低気温よりも気温が低いことが多いです。
自然の中で睡眠をとる体験は素晴らしいですが、寝袋の保温力が足りないと真夜中に早朝に目が冷めます。これは外気温は日の出前の早朝4~5時あたりが最も気温が下がり、また体温も下がっているためです。一度このタイミングで目が冷めてしまうと、身体が芯から冷え切っているため、ここからなかなか眠ることができません。そして、寝不足の状態になります。
楽しいアウトドア体験するはずだったのが、思わぬ寝不足でボーーっとしてしまうのは、もったいないです(しかも連泊でこれが続くとかなりキツイです)。少し汗ばむくらいの保温力の寝袋を選んで、ぜひ素敵なアウトドア体験を満喫してください☆
寝袋と(キャンプ用の)マットは2つで1つです。
キャンプ用のマットの役割は主に『断熱』と『寝心地を快適にする』の2つです。
『断熱』について・・・アウトドア用の寝袋の中綿として、化繊やダウンが使われていますため、小さく圧縮して収納し持ち運ぶ事ができます。寝袋を収納袋から出して広げると、徐々に中綿が膨らみますが、人間が寝袋に入ったときに身体と地面に挟まれた中綿はぺちゃんこに潰れるため、断熱力がほとんどなくなります。大概の地面は冷たく、身体の重みで密着した部分から体温が逃げ(ヒートロス、熱損失)て、底冷えします。この現象は、体温と地熱の温度差が大きい春・秋・冬ほど熱損失量も増えます。
これを防ぐため、キャンプ用のマットを使います。キャンプ用のマット体重がかかっても断熱効果が得られるよう設計されています。
『寝心地を快適にする』について・・・最近、畳の上で寝たことはありますか?痛くて寝れなかったという方もいるのではないでしょうか。昨今の快適用品の普及により、強い刺激に敏感になっています。よほどふかふかの芝生以外、寝袋のみで寝ると地面の凸凹や石があたって痛くてまともに寝れません。その衝撃を吸収する役割としてキャンプ用マットが使われます。キャンプ用マットは大きくクローズドセルマット(銀マットなど)とエア注入式の2種類あり、寝心地はエア注入式の方が良いです。
テントの中で寝袋の下に敷くマットは、様々な用途に合わせて、多数の商品があります。皆さんの用途にあった、快適に寝れるマットが見つかりますように☆