自然の奥深くに足を踏み入れるとき、私たちはその美しさだけでなく、厳しさにも向き合う必要があります。特に、野生動物との予期せぬ遭遇は、アウトドア活動において最も注意すべき事柄の一つです。UDAP(ユーダップ)の熊撃退スプレーは、そうした「もしも」の際に、あなたと、そして動物との間の最後の安全線となる可能性を秘めた装備です。

UDAPの熊撃退スプレーは他ブランド製の熊撃退スプレーと比較して、購入しやすい金額でオンライン販売されています。ただ、他ブランド製は日本代理店がついているのに対し、UDAPは個人輸入販売がメインなのか、あまり詳しい解説がされていませんので、その点を解説できればと思っています。
記事のポイント
- UDAP熊撃退スプレーが持つ、背景に裏打ちされた信頼性を理解できる
- 製品の性能を最大限に引き出すための、正しい使い方を学べる
- 熊との遭遇を避けるための心構えと、スプレーの適切な位置づけがわかる
- より深い安心感を得て、アウトドア活動を心から楽しめるようになる
著者PROFILE


経歴:大手アウトドアショップで寝袋・マットのコーナーを中心に約4年間の接客経験に加え、独自の調査・研究を重ね、アウトドア情報を発信し15年以上。無積雪登山・雪山登山・クライミング・アイスクライミング・自転車旅行・車中泊旅行・ファミリーキャンプなど幅広くアウトドアを経験。(詳細プロフィール) 名前:Masaki T
UDAP 熊撃退スプレーが、多くの専門家から信頼される理由




大自然の中で、私たちの安全を守る装備には、絶対的な信頼性が求められます。UDAP熊撃退スプレーが、多くのアウトドア愛好家や専門家から厚い信頼を寄せられているのは、その性能だけでなく、製品が生まれた背景に裏打ちされた物語があるからかもしれません。
創設者の壮絶な実体験から生まれた究極の護身具
UDAP(ユーダップ)熊撃退スプレーは、アメリカ・モンタナ州に拠点を置くUDAP Industries社が製造する、非常に強力な熊をはじめとする大型動物用の撃退スプレーです。その最大の特徴は、創設者自身の壮絶なハイイログマ(グリズリー)との遭遇体験に基づき、「本当に使える、命を救うための道具」として開発されている点にあります。
UDAP社の創設者であるマーク・マセニー(Mark Matheny)氏は、1992年に弓猟のためモンタナ州の山中に入っていた際、2頭の子連れの母グマに襲われました。不意を突かれたマセニー氏は反撃の暇もなく、顔や腕を噛まれるなど瀕死の重傷を負います。九死に一生を得たのは、同行していた友人が携行していた護身用の小型催涙スプレーを熊に噴射したからでした。
なんとか生還した直後の写真
この壮絶な体験から生還したマセニー氏は、「もっと強力で、確実に熊の攻撃を阻止できるスプレーがあれば」との強い想いを抱き、自ら熊撃退スプレーの開発に着手。1994年にUDAP社を設立し、自身の命を救った催涙スプレーを原型としながらも、より射程が長く、強力で、いかなる状況下でも即座に使用できる製品を追求しました。
UDAPという社名は、「Universal Defense Alternative Products(普遍的な防衛代替製品)」の頭文字から取られており、銃器以外の方法で身を守るための製品を開発するという同社の理念を表しています。
強力な噴射性能と信頼性の高い成分
UDAPの熊よけスプレーは、米国モンタナ州ビュートで製造されています
UDAP熊撃退スプレーの心臓部とも言えるのが、その強力な噴射性能と、熊に対して高い効果を持つとされる成分です。製品の有効成分であるカプサイシン類(トウガラシの辛味成分)の濃度は、アメリカ環境保護庁(EPA)が定める最大級の濃度を配合しているとされています。これにより、熊の敏感な粘膜(目、鼻、口)に強烈な刺激を与え、その攻撃性を一時的に無力化することが期待されます。
しかし、重要なのは成分濃度だけではありません。その成分を「いかにして対象に届けるか」という噴射性能が極めて重要です。UDAPのスプレーは、濃い霧状の噴射パターンを採用しており、風の影響を受けにくく、熊の顔面全体を素早く覆うことを目指して設計されています。また、モデルによっては9メートルを超える長い噴射距離を誇り、熊との間に安全な距離を保ちながら対処できる可能性を高めています。これらの性能は、パニック状態に陥りがちな緊急時において、冷静な判断と行動をサポートしてくれる、心強い味方となるでしょう。
UDAP 熊撃退スプレーのラインナップ比較
UDAPは、使用する状況や想定されるリスクに応じて、いくつかのモデルを展開しています。ご自身の活動スタイルに最適な一本を選ぶための参考に、代表的なモデルの比較表をご紹介します。
UDAP 12 VHP | UDAP 18 HP |
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– 内容量/質量:225 g (7.9 oz) – 射程距離:9–10 m* – 連続噴射:約7 秒 – 付属:視認性オレンジ缶+ヒップホルスター – 想定ユーザー:高視認性重視 – ヒグマ対応 ○ – 実売価格:6,800〜7,500 円 | – 内容量/質量:380 g (13.4 oz) – 射程距離:10–11 m* – 連続噴射:約8 秒 – 付属:チェストホルスター – 想定ユーザー:ガイド・複数名行動 – ヒグマ対応 ○ – 実売価格:8,500〜9,800 円 |
※射程距離は無風・20 ℃時のメーカー公称値。噴射距離や時間は、気象条件(風向き、気温など)によって変動する可能性があります。あくまで目安としてお考えください。 ご自身のフィールドや活動内容を考慮し、最適なモデルを選択することが、安全への第一歩となります。
UDAP 熊撃退スプレーを「お守り」にしないための正しい知識


UDAP熊撃退スプレーは非常に心強い装備ですが、それはあくまで「最後の切り札」です。このスプレーを携行しているという安心感から、熊との遭遇を避けるための基本的な注意を怠ってしまっては本末転倒です。スプレーの性能を100%引き出し、本当の意味で安全なアウトドア活動を楽しむためには、その正しい知識と使い方を深く理解しておく必要があります。ここでは、いざという時に慌てず、冷静に対処するための実践的な知識をご紹介します。
いざという時に慌てないための携行方法



熊との遭遇は、常に予期せぬタイミングで訪れます。そのため、熊撃退スプレーは「いつでも、1秒でも早く」取り出せる場所に携行することが絶対条件です。バックパックの奥深くにしまい込んでいては、全く意味がありません。
最も推奨されるのは、専用のホルスターを使用し、利き手で素早くアクセスできる腰のベルトや、バックパックのショルダーハーネス、チェストストラップなどに取り付ける方法です。購入後は、実際にスプレーをホルスターから出し入れする練習を繰り返しましょう。安全クリップを外し、構えるまでの一連の動作を、体に染み込ませておくことが重要です。この一手間が、パニック状態に陥った際の行動を大きく左右し、あなた自身の命を救うことに繋がるかもしれません。
UDAP 熊撃退スプレーの関連動画



文章だけでは伝わりにくい実際の噴射の様子や、専門家による解説は、動画で確認するのが最も効果的です。信頼できる情報源から、関連動画をいくつかご紹介します。
熊撃退スプレーを実際に噴射している動画
UDAP 熊撃退スプレーの使い方
熊撃退スプレーの比較動画
(UDAPの噴射動画あり)
※これらの動画を参考に、使用法のイメージトレーニングを重ねておくことを強く推奨します。
UDAP 熊撃退スプレーのよくある質問




ここでは、UDAP熊撃退スプレーに関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q1. 使用期限はありますか?
A1. はい、あります。スプレー缶の本体や箱に有効期限が記載されています。これは、噴射剤のガス圧が徐々に低下し、いざという時に十分な性能が発揮できなくなる可能性があるためです。期限が切れたスプレーは、練習用として使用するか(周囲の安全と法律を遵守した上で)、地域のルールに従って適切に廃棄し、新しいものに買い替えることを強く推奨します。
Q2. 飛行機に持ち込むことはできますか?
A2. いいえ、できません。熊撃退スプレーは高圧ガスを使用した危険物にあたるため、航空法により、機内持ち込みも預け荷物も禁止されています。遠征などで飛行機を利用する場合は、現地で調達するか、ガスを含まない配送方法で事前に送るなどの対策が必要です。
Q3. 保管はどのようにすれば良いですか?
A3. 直射日光が当たる場所や、車内などの高温になる場所での保管は絶対に避けてください。缶が破裂する危険性があります。また、子供の手の届かない、涼しく湿気の少ない場所で保管することが望ましいです。オフシーズンなどで長期間使用しない場合も、定期的に状態を確認することをおすすめします。
Q4. もし誤って自分にかかってしまったら?
A4. 大量の流水で、最低15分以上洗い流し続けてください。特に目に入った場合は、決してこすらず、直ちに洗い流し、速やかに医師の診察を受けてください。石鹸は成分の油分を皮膚に広げてしまう可能性があるため、まずは水で洗い流すことが重要とされています。コンタクトレンズは直ちに外してください。
Q5. ヒグマに対応していますか?
A5. アメリカ製なので、直接的にヒグマに対応しているとの記載はありません。ただ、北米に生息するグリズリー(ハイイログマ)に対応しており、生物学的にヒグマも同一種(遺伝的には同じ種、しかし環境で分化)であること。また、同程度の性能の他メーカーのアメリカ製のスプレーも日本でヒグマ対応として販売されています。以上より、ヒグマやツキノワグマなど全クマ種に対応と言えます。
全体のまとめ




- UDAPは創設者の壮絶な実体験から生まれた製品です。
- その背景が、他の製品にはない絶対的な信頼性を生んでいます。
- EPA認可の最大級濃度のカプサイシン類を含んでいます。
- 強力な噴射性能で、熊との間に安全な距離を確保します。
- スプレーは「最後の切り札」であり、過信は禁物です。
- 熊との遭遇を避けるための知識と行動が最も重要です。
- 携行時は、いつでも素早く取り出せる場所が絶対条件です。
- ホルスターを使い、出し入れの練習を繰り返しましょう。
- 使用期限を必ず確認し、期限切れのものは更新が必要です。
- 正しい知識を持つことで、心に余裕が生まれ、自然をより楽しめます。
実売価格



UDAP熊撃退スプレーの実売価格は、モデルや販売店によって異なります。ただ、ヒグマ対応としては他メーカー製に比べると安価に入手できることから人気です。アメリカのamazonでも324レビューで星4.8評価と非常に高評価を得ています。
Amazon、楽天では大型イベントセール、タイムセール、値引きクーポン、ポイントアップキャンペーンで実質売価は変動します。
amazon・楽天の口コミ
- よく考えられた商品です:プラスチック製ホルスター付きの商品が届きました。関東平野周辺の森林公園や各県の県民の森などビジターセンターがあるような場所でも探鳥中に熊のフンを見ることが出てきたので趣味のバードウォッチングのお供に買い求めました。プラスチック製のホルスターの出来が良いです。ベルトに取り付けた際、ホルスターがベルトから脱落することがないような構造をしているので、山野を歩く時で紛失の心配なく携帯できます。また、ホルスターがスプレーを抑える力も絶妙で腰に下げて歩き回ってもスプレーが勝手にホルスターから外れることがないにもかかわらず、上に引っ張るとホルスターからするりと取り外すことができます。使い方はいたって簡単でスプレー上部のオレンジ色をした安全装置を外してレバーを対象に向けて押し込むだけです。安全装置は適度な力で取り付けられており、ゴムで本体につけられているので紛失の恐れはありません。また再装着も簡単です。使う機会がないに越したことがありませんし、いざというときに効果的に使用できるかわかりませんが持っていて損はないと思われます。熊に対して使用したことがないのでその効果については未知ですが、携帯のしやすさと使いやすさと携帯していることで得られる安心感で星5にさせていただきました。
- 期限長めで助かります:別製品の期限が来たのでコチラにしてみました。期限が分からない通販購入は避けてましたが、2025/07購入2029/12期限で一安心。ホルスター(ケース)は付属していましたが慣れている古い方(布製)を使うことにします。
熊撃退スプレーのよくある質問
熊が出没による人身被害の多い都道府県はありますか?
環境省の資料によると、2019年~2024年の熊による人身被害件数が多い都道府県トップ5は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、新潟県、福島県、長野県がほぼ占めています。
本州はツキノワグマですが、北海道はより巨体のヒグマで気性も荒いと言われています。北海道は地域によってはヒグマ出没が頻度が多く社会問題になっています。


熊鈴と併用すべき?
クマと出会わない対策が第一。鈴・ラジオで存在を知らせ、スプレーは最終手段です。
クマの専門家の方曰く熊鈴の効果は
- 無風の開けた場所で最大300 m。
- 強風・沢音・密林では大幅に減衰。
- 「威嚇」ではなく“こちらの存在を知らせる手段” と割り切る。
と言われています。熊鈴は鈴型ではなく、音の大きなベル型が推奨です。
ただ、過去に人を襲って食べた熊は熊鈴の音を聞くと逆に寄ってくるという話もあり、過去にそういう事件があって解決していない山域では熊鈴は避けたほうが良いという意見もあります。
熊撃退スプレーの成分は何?


主成分はカプサイシンおよび関連カプサイシノイドでOC(Oleoresin Capsicum)と呼ばれます。これらは唐辛子に含まれる辛味成分で、哺乳類の粘膜や眼球のTRPV1受容体を強烈に刺激し、瞬時に痛覚・熱覚を引き起こします。
OCは溶剤(水溶性と油性がある)に溶かされ、ガス(窒素or二酸化炭素or代替フロンなど)と共にスプレー缶に詰めれれています。


最強の熊撃退スプレーはどれですか?





スペック的にも実績的にも「カウンターアソールト CA290」が最強だと思います。詳しくは下記ページをご参照。


売れている人気の熊撃退スプレーはどれですか?





価格が手頃でコンパクトな『ポリスマグナム B-609』が非常に人気です。ただしヒグマは非対応です。詳しくは下記ページをご参照。


カプサイシノイド濃度 が最大で2%なのはなぜですか?
米国環境保護庁(EPA)登録製品では総カプサイシノイド濃度 1〜2% が標準とされています。これは人体に対する非致死性と、野生動物に対する即効的な忌避効果のバランスを取った値であり、2%を超える処方は規制対象となり一般流通しません。


熊に遭遇した時の対処法ってあるの?



約50年クマ研究されてきた日本ツキノワグマ研究所 米田一彦さんの『熊に遭遇した時の対処法』の動画(約35分)が非常に有用です!
冬季は噴射力が落ちる?
気温0 °C付近でガス圧低下が起きる。内ポケット携行で温度を保つと良い。
人間にご誤噴射したらどうなる?


猛獣対策の熊撃退スプレーは対人用の護身用の催涙スプレーの何倍も強力な劇薬です。噴射物が僅かに目に入る・皮膚に付着するだけで数時間の痛みが続くようです
緊急時でも周囲に人がいる状況での使用も最大限の配慮が必要で、安易に噴射して自分にかかって動けなくなった例もあるようです。
誤噴射や被爆による応急処置
- 内容物が目に入った場合:すぐに流水で15分以上やさしく洗眼し、コンタクトレンズは5分以内に取り外す。
- 皮膚や衣服に付着した場合:衣類を脱ぎ、ただちに流水で15分以上洗い流す。
- 症状が改善しない場合は本製品を持参のうえ医療機関を受診する
海外や日本での誤噴射事故も複数件あります。


熊撃退スプレーって本当に必要?
その昔は仕事や研究調査で積極的にクマの生息域に入る方が携行するものでした。ところが近年は里山・市街地にも出没し被害が多くなる年もあり、出没頻度が多い地域では市町村がクマ撃退スプレーを推奨し、補助金がでている地域もあります。




熊に熊撃退スプレーを噴射している動画はありますか?
海外に実際に噴射している様子の動画がありました。熊が木に登ってるのはちょっと怖いですね。
熊スプレーは飛行機で運べますか?
スプレー缶は飛行機で荷物として運べません。例えば、東京から北海道まで行く場合は、熊撃退スプレーは「現地で購入」か「手持ちのスプレーを陸送」が必要になります。
以下の動画で輸送方法について解説されていて、参考になります。
熊撃退スプレーを使えば万が一襲われても助かりますか?
熊の専門家の方は「100%はないけれど90%助かる」と言われています。
過去、業務で9回襲われてますが、通常の5倍~10倍激しく攻撃してきた熊でも熊スプレーで撃退できた(以下の動画をご参照)
熊が近づいてきた時、熊撃退スプレーはどの距離で噴射したらよいですか?
5m~3m程度まで引き付けて噴射するのが推奨、と言われています。熊撃退スプレーのスペックは無風状態での測定値で、現実には風の影響を受けますので、確実に熊に届く距離が5m~3m程度と言われています。
10mだと風で飛ばされて効果がありません。5m,3m,2mと段階的に噴射します。最初の5mの距離での噴射でほとんどの熊が逃げます。
使用期限切れは使える?
刺激成分が劣化し効果が落ちる恐れがあるため推奨されていません。
使用期限の切れた熊撃退スプレーの処分方法は?
万が一用ですので、全く使用せずに使用期限を過ぎるケースがほとんどだと思います。
熊撃退スプレーは劇薬ですので、僅かに成分が目や皮膚に付着するだけで痛みが生じます。安全に処分する方法の動画がモンベルで紹介されていましたので、下記動画をご参考にしてください。

