熊撃退スプレーは、中身に唐辛子エキスを含む強烈な刺激成分とガスが封入されたエアロゾル缶です。不適切に廃棄すると、周囲への危険やトラブルの原因となります。

劇物ですので、廃棄にも最新の注意が必要です。安全な廃棄方法も紹介しています。
記事のポイント
- 熊撃退スプレーは使用期限が過ぎるとどうなる?
- 過去の熊撃退スプレーの廃棄トラブル事例
- 水中噴射による処分方法(推奨方法)
- 人気のない場所で中身を完全に噴射して空にする方法
著者PROFILE


経歴:大手アウトドアショップで寝袋・マットのコーナーを中心に約4年間の接客経験に加え、独自の調査・研究を重ね、アウトドア情報を発信し15年以上。無積雪登山・雪山登山・クライミング・アイスクライミング・自転車旅行・車中泊旅行・ファミリーキャンプなど幅広くアウトドアを経験。(詳細プロフィール) 名前:Masaki T
熊撃退スプレーは使用期限が過ぎるとどうなる?


有効成分(カプサイシン)の揮発・変質
主成分であるカプサイシン濃縮液は、溶媒中で微量ずつ揮発し、年月とともに刺激成分そのものが薄まる可能性があります。その結果、本来の“強烈な痛み”を十分に引き起こせなくなることがあります。
噴射圧力・飛距離の低下
エアロゾル缶内部のガスは、保管中にも微小に漏れ続けるため、時間経過で残圧が低下します。実験的には使用期限から2年を経過すると有効射程距離が短くなる傾向が確認されており、遠距離からの効果的な噴射が難しくなる場合があります 。
メーカー保証の喪失・性能未保証
多くのメーカーは、製造日から2~4年程度で「使用期限」を設定し、それ以降は性能や安全性を保証しません。使用期限を過ぎた製品は、設計時の噴射圧力や成分濃度が維持されないため、メーカーが推奨する交換時期を遵守することが重要です。
使用時のリスク増大
いざ熊と遭遇した際に期限切れのスプレーが正常に噴射できないと、防御機会を逃し重大事故につながる恐れがあります。緊急時の信頼性確保の観点からも、期限切れ製品の携行は避けてください 。
実際の効果持続年数のばらつき
ユーザーの試し撃ち報告では、期限切れから3年程度でもなお効果があるという声がある一方、5~7年超でほぼ効果を失った例もあります。製品や保管状況によって差が大きいため、期限内での交換を強くおすすめします
過去の熊撃退スプレーの廃棄トラブル事例


リサイクル施設での職員負傷事故
熊よけスプレーの成分が選別機に残留していた状態で作業を行ったリサイクル施設において、内容物の微量噴出により職員11人が目や皮膚に刺激を受ける事故が発生しています(出典: カナロコ)
・ 2017年11月9日(木)
横浜市は8日、ごみの選別施設で、熊よけスプレーの成分が漏れて作業員11人が軽傷を負う事故があったと発表した。市資源循環局によると、同日午前10時35分ごろ、同市緑区の緑資源選別センターで、ベルトコンベヤーで流れてきたスプレーを作業員が取り出してかごに入れた際、スプレーに含まれるカプサイシンと呼ばれる成分が漏れた。付近で作業していた11人がせき込んだり、体調不良を訴えたりしたため救急搬送された。
同センターは缶、瓶、ペットボトルの資源物を選別する施設。市ではスプレー缶の捨て方について、中身を使い切った上で透明や半透明の袋に入れて燃やすごみと同じ曜日に排出することとしており、資源物とは一緒に捨てないよう呼び掛けている。
ゴミ捨て場においてゴミとして出されていた「熊よけスプレー」を従業員が見つけ、微量を噴射してしまう。
2024年6月17日午前9時半ごろ、当社ビル館内において複数名が喉などに刺激を受け、咳き込むなどの現象が発生しました。
消防・警察による調査・検査を行っていただき、その時点で人体に影響を及ぼすような物質は発見及び探知されず、特に異常はないとの判断をいただきましたが、原因が不明の状態でした。それ以降、社内でも聞き取りや監視カメラの確認、発生場所や時間の特定などの調査を続けてまいりましたが、6月20日夕刻、原因は当社従業員による「熊よけスプレー」の噴射であることが濃厚であると判明しました。
調査結果の詳細は以下の通りとなります。
・6月17日9:00頃、ゴミ捨て場(屋内の1階)においてゴミとして出されていた「熊よけスプレー」を従業員が見つけ、微量を噴射してしまう。
・想像以上の威力に驚いたものの、換気を行ったため問題ないはないと判断、そのまま取引先へ外出。
・実際には、スプレーの物質が館内に充満、しばらくした後に3階事務所でも異常を感じ、3階事務所に居た総務課の従業員が消防へ連絡。
・当該従業員は、外出先で事態を知ったものの、名乗り出ることができずそのまま時間が経過してしまった。
・熊よけスプレーは、処分済み。
出典:https://www.sanjoh.ne.jp/information/2218/
清掃員の事故リスクと通報の必要性
家庭ゴミとして誤って出されたクマ撃退スプレーが破裂・成分拡散し、清掃員が負傷する恐れがあります。
下水・河川への廃液投棄による環境影響
廃液を希釈せず下水や河川に流した結果、処理施設が一時的に機能停止したり、周辺の水生生物に短期的な刺激〜死滅の可能性もあります。
法的トラブル(軽犯罪法違反のおそれ)
熊撃退スプレーの主成分であるカプサイシンは強い刺激を与えるため、誤って人に噴射すると正当な理由なく所持・使用したとして軽犯罪法に抵触する可能性があります 。
異臭騒ぎによる収集作業の中断
中身が残ったままのスプレー缶を可燃/不燃ごみとして収集に出すと、収集車内や処理施設で破裂・異臭が発生し、作業が一時中断されるケースが報告されています。
以上、日本や海外での熊撃退スプレーの廃棄トラブルです。
水中噴射による処分方法(推奨方法)



ネットで調べると複数の廃棄方法がありますが、個人的に最も安全かつ周囲への害も発生しにくい廃棄方法は、モンベルの紹介する「水中噴射」による処分方法だと思います。
簡単なまとめ
必要な準備物
- 10 L以上のバケツ
- 45 Lのポリ袋×3枚
- ゴム手袋
- マスク
- 防護メガネ
- 雑巾
- 給水ポリマー(例:ODトイレキット付属のもの)



この動画はモンベル制作なのでモンベルの製品使っていますが、もっと安価なトイレの凝固剤でも代用可能だと思います。


作業前の安全対策
- ゴム手袋・マスク・防護メガネを必ず着用します。
- 作業場所は風通しの良い屋外を選び、人家や通行人から離れた場所に設置します。
- バケツの下にポリ袋を敷き、地面への飛沫を防ぎます。
内容物の水中噴射による取り出し
- バケツの内側にポリ袋をかけ、スプレーが完全に沈む分量(約5 L)の水を注ぎます。
- スプレー本体からセーフティクリップを外し、噴射レバーをポリ袋越しに操作できるようにセットします。
- スプレー全体が水中に沈むようにバケツに入れ、さらに上からポリ袋を被せて水漏れを防ぎます。
- 水中で噴射ボタンを押し続け、内部の内容物とガスが完全に排出されるまでしっかり噴射します。
- バケツの中で軽く振るなどして、残留成分をすべて出し切ります。
廃液のゲル化と処理
- 内容物を噴射し終えたら、ポリ袋を裏返してスプレー本体を取り出し、水切りします。
- バケツ内に残った液体に給水ポリマーを加え、よく攪拌してゲル化させます(ODトイレキットのポリマーなら約6 回分が目安)。
- ゲル化した廃液をポリ袋に移し、不燃ごみ扱いで自治体のルールに従って処分します。
空き缶と使用後の装備の処分
- スプレー缶(殻):中身が完全に空になったことを確認し、各自治体の不燃ごみまたは金属ごみとして排出します。
- 手袋・マスク・防護メガネ:再利用せず、密封して可燃ごみとして処分します。
- 雑巾:付着した成分を水洗いし、他の洗濯物と分けて洗濯してください。
以上の手順を守ることで、残留成分を安全に取り出し、適切に廃棄いただけます。自治体の廃棄ルールが異なる場合がありますので、不明点はお住まいの市区町村へご確認ください。



内容物が溶け込んだ水をポリマーでゲル化して可燃物として廃棄する方法なので、周辺の水質への影響もなく、安全に廃棄しやすい方法だと思います。
人気のない場所で中身を完全に噴射して空にする方法



この方法は、風向きによっては自爆する可能性あります。
- 風向きを考えて熊撃退スプレーを噴射したものの、噴霧が自分側に流れてしまい、口や鼻、目に強い刺激を受けてしまった。
- 中身を使い切れず自宅敷地での噴射や処分に不安を感じた(近隣への飛散や洗濯物への付着などを懸念)。
- そこで人里から離れた山中へ移動し、スプレーを完全に噴射して中身を使い切った。
- 帰宅後、スプレー缶に穴を開けて残圧を抜き、自治体のルールに従って廃棄する予定である。
- 住宅街にお住まいの方は、使い切れない場合は風向きや飛散リスクを十分に考慮し、人がいない場所で空撃ちしてから処分するのがおすすめです。
最後に
ぜひ、自分・処理場の方に安全で、周囲の自然環境への負荷の少ない処分方法を実践していただければと思います。
熊撃退スプレーのよくある質問
熊が出没による人身被害の多い都道府県はありますか?
環境省の資料によると、2019年~2024年の熊による人身被害件数が多い都道府県トップ5は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、新潟県、福島県、長野県がほぼ占めています。
本州はツキノワグマですが、北海道はより巨体のヒグマで気性も荒いと言われています。北海道は地域によってはヒグマ出没が頻度が多く社会問題になっています。


熊鈴と併用すべき?
クマと出会わない対策が第一。鈴・ラジオで存在を知らせ、スプレーは最終手段です。
クマの専門家の方曰く熊鈴の効果は
- 無風の開けた場所で最大300 m。
- 強風・沢音・密林では大幅に減衰。
- 「威嚇」ではなく“こちらの存在を知らせる手段” と割り切る。
と言われています。熊鈴は鈴型ではなく、音の大きなベル型が推奨です。
ただ、過去に人を襲って食べた熊は熊鈴の音を聞くと逆に寄ってくるという話もあり、過去にそういう事件があって解決していない山域では熊鈴は避けたほうが良いという意見もあります。
熊撃退スプレーの成分は何?


主成分はカプサイシンおよび関連カプサイシノイドでOC(Oleoresin Capsicum)と呼ばれます。これらは唐辛子に含まれる辛味成分で、哺乳類の粘膜や眼球のTRPV1受容体を強烈に刺激し、瞬時に痛覚・熱覚を引き起こします。
OCは溶剤(水溶性と油性がある)に溶かされ、ガス(窒素or二酸化炭素or代替フロンなど)と共にスプレー缶に詰めれれています。


最強の熊撃退スプレーはどれですか?





スペック的にも実績的にも「カウンターアソールト CA290」が最強だと思います。詳しくは下記ページをご参照。


売れている人気の熊撃退スプレーはどれですか?





価格が手頃でコンパクトな『ポリスマグナム B-609』が非常に人気です。ただしヒグマは非対応です。詳しくは下記ページをご参照。


カプサイシノイド濃度 が最大で2%なのはなぜですか?
米国環境保護庁(EPA)登録製品では総カプサイシノイド濃度 1〜2% が標準とされています。これは人体に対する非致死性と、野生動物に対する即効的な忌避効果のバランスを取った値であり、2%を超える処方は規制対象となり一般流通しません。


熊に遭遇した時の対処法ってあるの?



約50年クマ研究されてきた日本ツキノワグマ研究所 米田一彦さんの『熊に遭遇した時の対処法』の動画(約35分)が非常に有用です!
冬季は噴射力が落ちる?
気温0 °C付近でガス圧低下が起きる。内ポケット携行で温度を保つと良い。
人間にご誤噴射したらどうなる?


猛獣対策の熊撃退スプレーは対人用の護身用の催涙スプレーの何倍も強力な劇薬です。噴射物が僅かに目に入る・皮膚に付着するだけで数時間の痛みが続くようです
緊急時でも周囲に人がいる状況での使用も最大限の配慮が必要で、安易に噴射して自分にかかって動けなくなった例もあるようです。
誤噴射や被爆による応急処置
- 内容物が目に入った場合:すぐに流水で15分以上やさしく洗眼し、コンタクトレンズは5分以内に取り外す。
- 皮膚や衣服に付着した場合:衣類を脱ぎ、ただちに流水で15分以上洗い流す。
- 症状が改善しない場合は本製品を持参のうえ医療機関を受診する
海外や日本での誤噴射事故も複数件あります。


熊撃退スプレーって本当に必要?
その昔は仕事や研究調査で積極的にクマの生息域に入る方が携行するものでした。ところが近年は里山・市街地にも出没し被害が多くなる年もあり、出没頻度が多い地域では市町村がクマ撃退スプレーを推奨し、補助金がでている地域もあります。




熊に熊撃退スプレーを噴射している動画はありますか?
海外に実際に噴射している様子の動画がありました。熊が木に登ってるのはちょっと怖いですね。
熊スプレーは飛行機で運べますか?
スプレー缶は飛行機で荷物として運べません。例えば、東京から北海道まで行く場合は、熊撃退スプレーは「現地で購入」か「手持ちのスプレーを陸送」が必要になります。
以下の動画で輸送方法について解説されていて、参考になります。
熊撃退スプレーを使えば万が一襲われても助かりますか?
熊の専門家の方は「100%はないけれど90%助かる」と言われています。
過去、業務で9回襲われてますが、通常の5倍~10倍激しく攻撃してきた熊でも熊スプレーで撃退できた(以下の動画をご参照)
熊が近づいてきた時、熊撃退スプレーはどの距離で噴射したらよいですか?
5m~3m程度まで引き付けて噴射するのが推奨、と言われています。熊撃退スプレーのスペックは無風状態での測定値で、現実には風の影響を受けますので、確実に熊に届く距離が5m~3m程度と言われています。
10mだと風で飛ばされて効果がありません。5m,3m,2mと段階的に噴射します。最初の5mの距離での噴射でほとんどの熊が逃げます。
使用期限切れは使える?
刺激成分が劣化し効果が落ちる恐れがあるため推奨されていません。
使用期限の切れた熊撃退スプレーの処分方法は?
万が一用ですので、全く使用せずに使用期限を過ぎるケースがほとんどだと思います。
熊撃退スプレーは劇薬ですので、僅かに成分が目や皮膚に付着するだけで痛みが生じます。安全に処分する方法の動画がモンベルで紹介されていましたので、下記動画をご参考にしてください。


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