登山では天候が急変しやすく、雨具選びは安全と快適性を大きく左右します。本記事では、レインウェアの耐水圧の基本知識から実際の雨の状況に応じた目安、使用や洗濯による性能低下とメンテナンス法までを解説します。自身の登山スタイルに合わせた最適な一着を見つけるための参考にしてください。
耐水圧とは何か?

耐水圧(ウォータープルーフ性能)は、生地がどれだけの水圧に耐えられるかを示す指標で、単位は「mm」(水柱の高さ)で表されます。例えば「10,000mm」の場合、生地が10,000mm(=10m)の水柱を支えられるという意味です。JIS(日本工業規格)では「JIS L1092」で試験方法が規定されています。

実際には水柱ではなく、何らかの耐水圧試験機で評価されていると思います。
JIS L 1092 B法(高水圧法) の試験方法
- 約170×170mmの試験片を5枚用意します。
- 生地使用時に水が掛かる面を試験機の水面に装着します。
- 昇圧速度100kPa/minで試験片に水圧をかけていきます。
- 試験片の表面に水滴が3滴出水した時点の水圧を測定します。
- 試験結果は5枚の平均値とし、水圧(kPa)または水位の高さ(mmH2O)とします。
雨とレインウェアの耐水圧



登山のレインウェアは、行く山域や天候条件によって必要な耐水圧が変わります。
調査の結果メーカーにより諸説ありますが、おおよそ下記内容になると思います。


雨の状況 | 推奨耐水圧(mm) |
---|---|
小雨 | 約5,000 mm |
中雨 | 約10,000 mm |
大雨 | 約15,000 mm |
猛烈な雨 | 20,000 mm以上 |
解説
- 小雨(Light rain):霧雨や通り雨程度。5,000 mm程度の耐水圧があれば、しとしと降る雨なら十分しのげます。
- 中雨(Moderate):登山でよく見られる通し降りやまとまった雨。10,000 mmの耐水圧があると安心して行動可能です。
- 大雨(Heavy rain):強い雨脚で長時間降り続く場合。15,000 mm程度の性能が求められ、泥跳ねや水しぶきにも強くなります。
- 猛烈な雨(Violent rain):豪雨や暴風雨レベル。20,000 mm以上の最高クラス耐水圧を持つジャケットが望ましいでしょう。



なお、耐水圧だけでなく透湿性やシームテープの有無、撥水コーティングの耐久性も併せて確認すると、汗ムレを防ぎつつ確実に雨を防ぐウェア選びにつながります。
どの程度の耐水圧のレインウェアを選べばよいか?



結論を書くと、モンベル・ミズノ等の大手アウトドアメーカーの登山対応と記載されたレインウェアは、耐水圧が20,000 mm以上になっています。
山でどんな天候になっても安全となると、この水準の耐水圧を持つレインウェアになるようです。
耐水圧が10,000mm~20,000mmのレインウェアは登山で使える?



難しいところだと思います。大丈夫かもしれないし、雨がしみてくるかもしれない、みたいなラインだと思います。
実使用&洗濯&経年劣化で耐水圧は下がっていく





レインウェアの耐水圧(防水力)は、実際の使用や洗濯、さらには経年劣化によって徐々に低下していきます。主な要因と、低下を抑えるためのポイントをまとめました。
耐水圧が低下する主な要因
- DWR(耐久撥水)コーティングの劣化
- 表面に施された撥水加工(DWR)が摩擦や汚れ、洗濯によって剥がれ落ちると、水滴が生地表面で弾かれず、水が長く留まるようになります。
- 繊維・膜への汚れの付着
- 皮脂や泥、ホコリが生地表面や内層の透湿膜に付着すると、浸透性が低下し、結果的に防水性能も下がります。
- 繊維・防水膜の摩耗や微細な孔の変形
- 摩擦や繰り返しの折り畳み、着脱によるストレスで、微細な防水膜(フィルム)の孔や繊維構造が少しずつ損なわれます。
- 経年変化による素材の硬化・脆化
- 長期間の紫外線や熱、湿度変化の繰り返しで、防水素材自体が硬くなり、均一な防水膜を維持しにくくなります。
具体的な耐水圧低下の例(参考例)
- 使用前(新品時):耐水圧20,000 mm
- 洗濯10回後:耐水圧約15,000 mm 程度まで低下
- 洗濯20回後/1シーズン越し:耐水圧約10,000 mm以下になることも
※環境や洗濯方法、使用頻度によって変動します。
耐水圧低下を抑えるケア方法
- 適切な洗濯
- 中性洗剤ではなく、専用の「ウェア用クリーナー」を使用し、汚れを落としながらDWRへのダメージを最小化します。
- DWRの再撥水処理
- 洗濯後にスプレータイプやアイロン/乾燥機を使った「撥水剤」を定期的に再施工します。
- 目安は洗濯5〜10回ごと、あるいはシーズン初め・終わりに。
- 保管方法の工夫
- 直射日光・高温多湿を避け、風通しのよい場所でハンガー掛け保管すると、素材の劣化を抑えられます。
- 使用後のメンテナンス
- 泥や汚れはその日のうちに軽く水洗いし、速やかに乾燥させてから収納すると、長持ちします。
定期的なメンテナンスで耐水圧の低下を抑えつつ、必要に応じてDWRを再施工すれば、新品時に近い防水性能を長く維持できます。登山の安全性・快適性を保つためにも、こまめなケアを心がけましょう。
最後に


登山用レインウェアの耐水圧は、JIS L1092 B法(静水圧法)で評価され、水柱(mm)で表示されます。雨量に応じて小雨5,000mm、中雨10,000mm、大雨15,000mm、暴風雨20,000mm以上が目安です。使用・洗濯や経年でDWR剥離や汚れ付着により低下するため、専用洗剤での洗濯後に撥水剤を再施工したり、フルシームシーリングの有無や透湿性を確認して快適性を維持しましょう。
耐水圧だけでなく透湿性も重要
耐水圧が高いほど防水性は増しますが、同時に生地が蒸れやすくなる場合があります。
- 透湿性(ムレの逃げやすさ)もチェックしましょう。
- シームシーリング(縫い目の防水処理)が施されているか。
- 撥水コーティング(DWR)の有無・耐久性も忘れずに。