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防水透湿性素材がシュラフ本体にあまり使われない理由

「なぜ防水透湿性素材がシュラフ本体にあまり使われないのか?」とある方から質問を頂き、多くの方が疑問に感じる内容でもあったため、記事にしました。 

著者PROFILE

運営者・著者 Masaki T

名前:Masaki T
経歴:大手アウトドアショップで寝袋・マットのコーナーを中心に約4年間の接客経験に加え、独自の調査・研究を重ね、寝袋・マットの情報を中心としたこのサイトを運営して10年以上。無積雪登山・雪山登山・クライミング・アイスクライミング・自転車旅行・車中泊旅行・ファミリーキャンプなど幅広くアウトドアを経験。(詳細プロフィール

目次

質問「タイベックやゴアテックスを「シュラフ」の生地として使えば、荷物も減るのでは?」

質問

質問なのですが、「シュラフ」のほかに「シュラフカバー」が売られているようですが、「シュラフカバー」を「シュラフ」に使えばいいのではないかと(一体化)思うのですが、なぜわざわざカバーとして商品化されているのでしょうか?
記事に書かれているメリットは納得しますが、例えばタイベックやゴアテックスを「シュラフ」の生地として使えば、荷物も減るのではと考えてしまいます。
「ゴアテックス 寝袋」で検索しても、「シュラフカバー」しかヒットしないので、不思議に思ってます。

回答「様々な理由で使われていないシュラフが大多数です」

確かにゴアテックスなど防水透湿性素材をシュラフ本体の生地として使えば軽量化できますが、様々な理由で使われていないシュラフが大多数です。

防水透湿性素材をシュラフ本体の生地として使われている製品は、僅かではありますが存在しています。

ナンガ 「オーロラ」モデル(※類似名のオーロラライトは非防水)

ナンガ 防水透湿性素材 オーロラテックス

多孔質ポリウレタン防水コーティング加工を施したナイロン生地。防水性を高めると蒸気透湿性が低下するという問題を高レベルで解決した素材。2レイヤ地で20,000mm・透湿性6,000g/m2/24hrs、という高レベルの防水透湿性能を持っています。[出典:ナンガ]

イスカ 「パフ」モデル

厳冬期の国内山岳、ヒマラヤや極地遠征にも高い保湿性能をお求めの方に最適なモデル。

ゴア ウインドストッパー:寝袋やダウンパーカーに特化して、その性能向上を目的に開発された画期的な防寒素材です。[出典:イスカ]

モンベル 「ドライ シームレス ダウンハガー」モデル

ダウンの片寄りを防ぐための隔壁を廃した、画期的な「スパイダーバッフルシステム」搭載した防水スリーピングバッグ。縫い目の少ない構造を生かし、防水透湿性素材を使用することで高品質ダウンを濡れから守り、中綿の保温力を最大限に引き出します。

○素材の特徴<ゴアテックス インフィニアム™ ウインドストッパー® ファブリクス>

優れた防水性・防風性と、スリーピングバッグ内にこもった汗の水蒸気を素早く逃がす優れた透湿性を合わせ持つ素材です。暖かな空気を逃がさず、内側のダウンをドライに保つことができるため、高い保温効果をもたらします。生地表面には耐久はっ水加工を施しています。

ゴア ウインドストッパーとは、ゴアテックスで有名なゴア社の防風・高透湿素材です。マテリアルの性能は公式には公表されていませんが、防水性(耐水圧)もある程度持っています。

因みにパフモデルに関して、以前メーカーに問い合わせたところ、「ウインドストッパーでは長時間濡れていると水が徐々に染み込んでくるため、防水に関しては別途ゴアテックスのシュラフカバーを使用して下さい」と返答ありました。

以上、僅かではありますが防水透湿性素材がシュラフの表地として使われているものがありますが、その他大多数の製品がナイロンもしくはポリエステルの撥水加工生地が使用されています。

タイベックについては、撥水が弱く生地自体の耐久性がそれほど無い(摩耗に弱い)ため、シュラフ本体の生地には不適ですので、その他、防水透湿性素材がシュラフ本体の生地としてあまり使われない様々な理由を中心に以下に掲載しました。

防水透湿性素材がシュラフ本体の生地としてあまり使われない様々な理由

  • 重量が重くなる&ニーズが少ない
  • 完全防水ではない(縫い目の穴あり)
  • シュラフとしての製品寿命が短くなる可能性がある
  • メンテナンスが面倒

重量が重くなる&ニーズが少ない

ナイロンやポリエステル生地のより、防水透湿性素材を使ったほうが重量が重くなります。

防水透湿性素材には、

  • 表地(ナイロンorポリエステル)+防水透湿メンブレン+裏地の3層構造
  • 表地(ナイロンorポリエステル)+防水透湿メンブレン+極薄裏地の2.5層構造
  • 表地(ナイロンorポリエステル)+防水透湿メンブレンの2層構造

があり、単なるナイロンorポリエステル生地より単位面積あたりの重量は増えます。

ナンガの同程度のシュラフを比較すると、どの程度重量が増えるのかわかります。(約245gの重量増)

  • DOWN BAG 450(生地:40dnナイロンタフタ,ダウン量:450g,総重量:約890g)
  • AURORA 500(生地:表地:オーロラテックス、裏地:40dnナイロンタフタ,ダウン量:500g,総重量:約1,185g)

シュラフカバーは、違うページでも記載しているように、連泊や悪天候時には有効ですが、1泊登山の場合必要としない場合も多々あります。

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テント泊する登山者(ある程度体力のある方)は、なんらか仕事を持っていて土日休みなど1泊以上はとりにくい、山にそれほど時間を費やせない方々も多数います。シュラフ市場の需要として、そこまで必要としない防水透湿性素材よりも、軽量・コンパクトになるナイロン・ポリエステル生地で十分というのも考えられます。

完全防水ではない(縫い目の穴あり)

実は、防水透湿性素材を使ったシュラフは、完全防水ではありません。縫製で糸が通った穴が多数あるためです。

ダウンシュラフは、ダウンの偏りを防ぐため隔壁といってメッシュ生地で空間を分けていて、隔壁をつくるために表地に多数の縫い穴が発生します。

防水透湿性素材を表地に使っても、この縫い穴が発生するため、ここから水が侵入します。テント内での結露程度では縫い穴からの水の侵入はそれほど問題にならないと思いますが、雨風ある中でもタープの下で寝るなど、長時間にわたって寝袋に雨が直接かかる可能性が高い場合、縫い穴から水が入る可能性があります。

シュラフとしての製品寿命が短くなる可能性がある

シュラフは数ある登山装備の中でも、比較的寿命が長い装備です。

登山で一般的なダウンシュラフの素材の寿命を考えてみましょう。

使用頻度やメンテナンス程度によりますが、

  • ダウン 耐用年数10年以上(徐々に復元力(ロフト)は低下していきます)
  • ナイロン・ポリエステル生地 耐用年数5~10年程度

ぐらいは行けるのかなと思います。(20年前購入したダウンジャケットまだ使えます)

ダウンはとにかく水濡れ放置は厳禁で、ナイロン・ポリエステルは使用頻度で寿命が変わります。シュラフは基本的にテント内のある程度清潔で強い紫外線が直接当たらない環境で長時間使われるため、しっかりメンテナンスすれば10年程度は使えます。(ただし、ダウンの膨らむ力が徐々に弱まり保温力が低下していく、というのはあります)

それに比べて、防水透湿性素材は、短い寿命になります。防水透湿性素材といっても、ゴアテックスやその他ポリウレタン系防水透湿性素材など様々ですが、一般的に言われているのは

  • ポリウレタン系防水透湿性素材 耐用年数5年程度
  • ゴアテックス&ウインドストッパー 耐用年数5年以上

ポリウレタン系防水透湿性素材は、加水分解により5年ぐらいで水が染み込んでくるようになる可能性があります。ゴアテックスは「10年持った」という話を耳にするくらい、その他防水透湿性素材よりは高耐久です(そのため、多くのアウトドアメーカーのハイエンドモデルウェアではゴアテックスが使われています)。ゴアテックスと類似構造のウインドストッパーも同程度と思われます。

もし、シュラフ本体の表地に防水透湿性素材を使うと、シュラフの寿命≒防水透湿性素材の寿命となり、シュラフとしての寿命が短くなる可能性が高いです。(補足:防水透湿性素材の透湿性・耐水圧は初期値が公表されていますが、その後の使用や経年劣化で性能は徐々に下がっていきます)

因みに、ゴアテックス&ポリウレタン系防水透湿性素材の劣化は外見からはほとんど分かりません。レインウェアとして着用した場合は水が染み込んで衣服がベチャベチャになり、もう防水透湿性素材として機能していないことがわかりますが、シュラフの表地として使用した場合は裏側はダウン+生地あり、その染み込みを直接確認できないです。防水透湿膜(メンブレン)が劣化しても、その上のナイロンorポリエステル層は撥水機能があり、耐水圧が実用に耐えうるほど残っているのか、判断しにくいです。購入後まもなくであれば、大丈夫でしょうが、数年経過したき、どの程度の防水透湿性があるかわからない不透明な状態のものを、その性能を頼りにする環境下で使うのは、それなりのリスクを伴います。

因みにあるブログに、ナンガのオーロラテックスの劣化についての問い合わせ内容を公開されていましたのでご参考に。

⇒ https://ameblo.jp/nanataro-coleman/entry-12439535067.html

冬キャンプも盛んになり、シュラフ問題に直面するキャンパーさんも多いと思います。
イスカ、ナンガ、モンベルといった冬山登山にも対応したシュラフを販売しているメーカーの中、ダウンシュラフにカバー無しでもいける防水加工(ポリウレタン加工)のオーロラシリーズを販売するナンガ社に問い合わせてみました。
ポリウレタンと言ったらテントの経年劣化でベタついたり剥がれたり。そのポリウレタン加工に寿命がどれほどあるのか?が疑問にありましたので
↓↓↓↓↓↓↓↓
この度は弊社製品をご検討いただきありがとうございます。
お問い合わせいただいた内容について、下記のとおり回答させていただきます。

■問い合わせ内容:
シュラフ購入にあたり、シュラフカバー不要とのポリウレタン加工についてお伺いし
ます。
ダウンシュラフの場合、シュラフカバー必須の知識でした。シュラフカバー不要のポ
リウレタン加工でテントのポリウレタン劣化のように剥がれやベタつきなど起こりま
せんか?

■お問い合わせへの回答
オーロラテックスの防水加工(ポリウレタンコーティング)については、使用の環境
や年数によって劣化して剥がれる事も起こり得るかと存じます。
そのため弊社では修理を無料で行う「永久保証」というサービス行っております。
(ダウンシュラフのみ)
経年劣化による生地の損傷についても保証が適用されますのでご安心いただければと
思います。

下記リンクに永久保証についてのご案内がございますのでご確認いただければと思い
ます。
https://nanga.jp/knowledge/warranty/

以上。ご確認よろしくお願い致します。
今後も弊社製品をよろしくお願い致します。

メンテナンスが少し面倒

防水透湿性素材は水を通しませんから、シュラフを洗濯する時、洗濯水に浸りにくくなります。

ナイロンorポリエステルの表地のシュラフでも、生地の高い撥水力によりとても洗いにくい(なかなか洗濯水が入っていかない)のですが、防水透湿性素材なら更に入っていかないのが用意に想像されます。

洗濯後の脱水についてです。レインウェアを洗濯機で洗ったことはあるでしょうか。脱水したはずなのにレインウェアはベチャベチャだったのではないでしょうか。高い耐水圧を持った防水透湿性素材は、洗濯機の脱水程度では水を通過せず、残ります。

シュラフに防水透湿性素材を使うと、洗濯後のシュラフを脱水する時にレインウェアと同じような水が抜けない現象が、起こりえます。

内部に水が残った分だけ、乾燥機での乾燥時間が長くなると思われます。

まとめ

私もその昔、「シュラフ本体に防水透湿性素材が使われないのはなぜだろう」と疑問に思ったことがありますが、長年シュラフに関わる中でその理由がわかってきました。

実際に防水透湿性素材が使われている寝袋を使っている方の感想は、各製品についてるレビューを参考になさってください。

同様の疑問を持っている方も多数いると思いますので、参考になれば幸いです。



著者PROFILE

この記事を書いた人寝袋選びで大切なこと寝袋とマットは2つで1つ

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著者: Masaki T

2009年末から寝袋と関連装備に特化したこのサイトを開設。いつの間にか運営10年を超える老舗サイトに。ファミリーキャンプから無積雪期登山、厳冬期登山、バイクのキャンプツーリングに自転車旅行、車中泊など、アウトドアを幅広く経験。寝袋の宿泊数は100泊以上~500泊未満。狭い業界ですが、まだまだ知らないこと沢山あり、日々勉強中です☆

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雨風や断熱材で守られた家と違い、アウトドアフィールドでの宿泊は天候や外気温の変化を大きく受けます。事前の天気予報より、当日の気温が-5℃程度低かった、などは日常茶飯事です。また、多くのキャンプ場は、最寄りの市街地よりも標高が高い事が多く、天気予報で知ることのできる最寄りの市街地の最低気温よりも気温が低いことが多いです。

自然の中で睡眠をとる体験は素晴らしいですが、寝袋の保温力が足りないと真夜中に早朝に目が冷めます。これは外気温は日の出前の早朝4~5時あたりが最も気温が下がり、また体温も下がっているためです。一度このタイミングで目が冷めてしまうと、身体が芯から冷え切っているため、ここからなかなか眠ることができません。そして、寝不足の状態になります。

楽しいアウトドア体験するはずだったのが、思わぬ寝不足でボーーっとしてしまうのは、もったいないです(しかも連泊でこれが続くとかなりキツイです)。少し汗ばむくらいの保温力の寝袋を選んで、ぜひ素敵なアウトドア体験を満喫してください☆

山岳・登山用の寝袋マットの選び方の基本(無積雪期)

寝袋と(キャンプ用の)マットは2つで1つです。

キャンプ用のマットの役割は主に『断熱』と『寝心地を快適にする』の2つです。

『断熱』について・・・アウトドア用の寝袋の中綿として、化繊やダウンが使われていますため、小さく圧縮して収納し持ち運ぶ事ができます。寝袋を収納袋から出して広げると、徐々に中綿が膨らみますが、人間が寝袋に入ったときに身体と地面に挟まれた中綿はぺちゃんこに潰れるため、断熱力がほとんどなくなります。大概の地面は冷たく、身体の重みで密着した部分から体温が逃げ(ヒートロス、熱損失)て、底冷えします。この現象は、体温と地熱の温度差が大きい春・秋・冬ほど熱損失量も増えます。

これを防ぐため、キャンプ用のマットを使います。キャンプ用のマット体重がかかっても断熱効果が得られるよう設計されています。

登山ルート上のキャンプ場・テント場

『寝心地を快適にする』について・・・最近、畳の上で寝たことはありますか?痛くて寝れなかったという方もいるのではないでしょうか。昨今の快適用品の普及により、強い刺激に敏感になっています。よほどふかふかの芝生以外、寝袋のみで寝ると地面の凸凹や石があたって痛くてまともに寝れません。その衝撃を吸収する役割としてキャンプ用マットが使われます。キャンプ用マットは大きくクローズドセルマット(銀マットなど)とエア注入式の2種類あり、寝心地はエア注入式の方が良いです。

テントの中で寝袋の下に敷くマットは、様々な用途に合わせて、多数の商品があります。皆さんの用途にあった、快適に寝れるマットが見つかりますように☆

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